すさまじきもの 〜歌枕探訪〜


小野ノ滝(長野県上松町)






木曽路小野の瀧といふは、布引箕面などにもをさをさおとりやはする。
是程の物の、此国の歌枕にはいかにもらしたるにや

細川幽斎(老乃木曾越)




豊臣秀吉の小田原城攻めに参陣した細川幽斎は、戦勝のあと、中山道経由で京へ戻った。旅の様子は紀行文「老乃木曾越」としてまとめている。

その中で、木曽路の小野の滝は摂津の布引や箕面の滝に全く劣らないのにどうして歌枕になっていないのかと疑問を呈している。たしかに、小野の滝を詠んだ歌は多くない。

細川幽斎と同じく、街道に近い、これほどの名瀑がどうして注目されてこなかったのか、たしかに疑問であるのだが、

多分、すぐ近くに「木曽の桟」や「寝覚の床」など都人の度肝を抜くほどの奇観があるので、そちらに心を奪われてしまい、小野の滝がたとえ素晴らしくても、たかが一本の滝なので、これなら都の周辺でも見ることができるということになり、いささか等閑視してしまったのではないだろうかと、容易に想像してしまう。

そんなことを考えると、木曽路は景観的に贅沢なところである。





明治時代に国鉄中央線を滝の前を通すことになり、景観は大きく変わったが、今となってみるとレンガ造の橋脚も程よく苔むしており、これはこれで風趣を添える結果となっている。



これが小野の滝。
箕面の滝に匹敵するような滝である。
古びたJRの橋脚も趣き深い。



写真では分からないが、すぐ横を国道が通っている。昔は中山道。
つまり旅人は必ずこの滝を見ていた。



列車が通るのを待っていたが、なかなか来ないので、車を出発させたところに特急しなのが通過した。いつもと同じ。



「木曽海道六十九次(上ヶ松)」 (Wikipedia)



葛飾北斎「諸国瀧廻り(木曽海道 小野ノ瀑布)」 (Wikipedia)


どちらの浮世絵にも滝に向かって祠が建っているようだ。










木曽路名所図絵「小野瀧」 (早稲田大学図書館)

滝の前を中山道が通っている
道の左側は木曽川












こんな小野の滝を詠んだ歌を掲出する


名にたてる木曽の麻衣(あさきぬ)そめなして 雲井にさらせたきしら糸 小野瀑布(木曽八景)
麻衣は木曽の名産

をのつから行くる人のよりきつつ こころひかれしたきしらいと 細川幽斉


夏引きの糸引懸したき水は をのとわくなるすみもみうす 細川幽斉


白妙に見る一筋は手作りのそれかとまかう小野の滝つせ 土方歳三
幕末新撰組副長

ふきおろす松の嵐も音たえて あたりしずしき小野のたきつせ 浅井洌
明治時代、旧松本藩士

小野の瀑を見る 子規鳴き過ぐ雲や瀧の上 高浜虚子





雲から一筋の白糸が垂れるような、そんな滝のイメージだろう
















街道のすぐ横というロケーションは抜群です






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