すさまじきもの 〜歌枕探訪〜


阿漕(あこぎ)(三重県津市)




伊勢の国阿漕が浦に引く網も度重なれば人もこそ知れ 源平盛衰記


< ことわざ >

「阿漕が浦に引く網」

【意味】・・・人知れず行う隠し事も、たびたび行えば広く人に知れてしまうことのたとえ

【背景】・・・ 「阿漕が浦」は三重県津市東部の海岸一帯で、昔は伊勢神宮に奉納する魚を取るために網を引いた場所。
特別の漁業区域で一般人の漁は許されていなかったが、阿漕の平治という漁師が病気の母親のために、たびたび密漁をしていて、ついには見つかり簀巻きにされたという伝説から。
「あこぎなまねをする」などと用いる、強欲であくどいさまをいう「あこぎ」も、この伝説から出た言葉。

(故事ことわざ辞典) 



阿漕の逸話は本当に怖い。簀巻きにされて海に沈められるなんて想像するだに恐ろしい。

けれども、いかなる理由があれ、ルールを犯した者は法によって裁かれるわけで、それはそれで仕方のないものである。

ただし、おさまらないのが簀巻きにされた漁師の平治。
能の「阿漕」では、平治の亡霊が現れて、密漁の様子を見せる。地獄の業火に身を焼かれ、助けてほしいと懇願しながら再び海の底に消えていく。


いやはや何とも恐ろしい。



とりあえず【現地報告】


ここが阿漕が浦
昔、ここの沖合は禁漁地になっていた。
現在では津の日本鋼管の造船所が見える。


なんてことのない、ちょっとイマイチな海水浴場となっていた。



さらに、阿漕の街中には「阿漕塚」があった。

小さな公園になっていた。



「阿漕塚」
世の中では「阿漕の平治は欲深い」とされているが、
地元では「阿漕の平治は親孝行」とされて尊敬されている。
このため地元では阿漕塚を設けて、平治の霊を弔っている。



そして、芭蕉の巨大な句碑があった。


月の夜の何を阿古木に啼く千鳥 松尾芭蕉


阿漕塚(津市柳山津興622)に句碑



その他、「密漁も度重なれば人々に知られてしまう」が転じて「(男女の)密会も度重なれば世間にバレてしまう」とされ、

逢ふことを阿漕の島に曳く網の度重ならば人も知りなむ 古今和歌六帖

と、こんな感じに詠まれたりしている。



能「阿漕」ゆかりの地でもある。



能「阿漕」のキリの感動場面
「伊勢の海 清き渚のたまだまも とうこそ便り法の声 耳には聞けども なお心には ただ罪をのみ持ち網の 波はかえって 猛火となるぞや あら熱や たえがたや 丑三つ過ぐる夜の夢 丑三つ過ぐる夜の夢 見よや因果のめぐり来る 火車に業を積む 数苦しめて目の前の 地獄も誠なりげに 恐ろしの気色や 思うも怨めし いにしえの 思うも怨めしいにしえの 娑婆の名を得し 阿漕がこの浦に なお執心の 心引く網の 手馴れしうろくず今はかえって 悪魚毒蛇となって 紅蓮大紅蓮の氷に 身を痛め 骨を砕けば 叫ぶ息は 焦熱大焦熱の 焔煙雲霧 立居に隙もなき 冥途の責もたび重なる 阿漕が浦の罪科を 助け給えや旅人よ 助け給えや旅人とてまた波に 入りにけり また波の底に 入りにけり」
多分誰も興味がないだろうと、一番小さなフォントにした。
ユーチューブを見てみると、ちょうどキリの場面の仕舞(名古屋市立大学)があったので、リンクを貼っておく。











伊勢参宮名所図会の阿漕のページ

早稲田大学図書館












さすがメジャー史跡。
感動で震えました。






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