すさまじきもの 〜歌枕探訪〜


万休院(山梨県北杜市)





山梨県北杜市の名刹、長松山万休院は昔から庭園の美しさで知られていた。とくに国の天然記念物に指定されていた樹齢450年の赤松の木は枝振りがよかったことから舞鶴松と呼ばれて万休院の至宝ともなっていた。

ところが松食い虫の被害にあり2006年に枯死してしまったらしい。

残念というか、よく分からないが、案内板に次のような説明があった。

初代の松は開創時周辺にあった美形松を愛育したのですが火災に遭い、2代目松を植栽し樹齢約450年と言われた赤松の名木として育ち、全国的にも稀なものとして1934年に国の天然記念物に指定されました。残念ながら2006年11月マツクイムシの被害が確認され、枯死してしまいました。当寺院と松は切っても切れないものであり、庭園に植えられている現在の松は、寄進者のご厚意により、樹齢100年とも想定される赤松を3代目舞鶴松として2008年9月吉日に植栽しました。2代目松に相応しい松に育てて参りますので、暖かく見守って下さい。 
2008年12月 長松山 萬休院







私は全国の美しい寺院巡りをしているわけでなく、また巨木巡りをしているわけでもないので、全ての木はいつか枯れるもの、それが早いか遅いかぐらいにしか感じないのだが、これが歌に詠まれた松の古木であるのなら、さすがに一抹の寂寥感を禁じ得ない。





当院には庭園の美しさを詠んだ歌が「寺景八勝」として伝わっている。

千代かけて契や置しあし田鶴のなれて訪来る庭の老松 庭前老松
真木茂る此の下蔭にたゝずめば憂も熱もをはなれけり 大門納涼
諸人のあゆみをよする法の庭錦ちり敷く樹々のもみぢ菓 文殊堂紅葉
千代ふべき竹の林に住なれて嬉しきふしに鶯の啼 竹林啼鶯
打渡す七里の岩の夕栄えにたそがれそして秋の夕暮 七里岩夕照
薫らずは雪と見るらん広庭に隈なく咲ける梅の一本 広庭梅花
異里の人も愛るかひとろ山空も曇らぬ秋の夜の月 賓頭慮山秋月
山門を幾重隔てゝ久方の雲井に高く見ゆるふしの峰 富士遠景



これをみると、舞鶴松というのは一首目の庭前老松のことだろう。鶴も訪れるようだ。















現地に訪問したのは2021年の真夏。
新型コロナウイルスの猛威が振るっている最中のこと。


当院も観光客が来ないのか、閑散としていた。


庭園は季節が悪いため、今一つ美的情趣に欠けていた。



社頭














これは案内板にあった、舞鶴松が元気だった頃の写真。


白砂に鶴が飛びかい、松の緑は濃く、南アルプスの残雪を借景とした、一幅の錦絵を見るような佳景である。















三代目松が無事に育つことを祈るばかりです







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