すさまじきもの 〜歌枕★探訪〜 |
【長谷寺の二本の杉】
たしかに根っこが繋がっている。 長谷寺の登廊から少し歩いたところにある。 源氏物語の感動的なシーン、玉鬘と右近の再会は海柘榴市の宿でのことであったが、そのあとに詠み交わした歌には「二本の杉」が詠み込まれている。 |
ふたもとの杉のたちどを尋ねずは ふる川のべに君を見ましや | 右近(源氏物語) |
初瀬川はやくのことは知らねども今日のあふ瀬に身さへ流れぬ | 玉鬘(源氏物語) |
源氏物語では物語の進展に沿ってタイムリーに歌が詠まれているが、数のわりに秀歌が少ないと思う。 その中でこの二首はとても印象に残る素晴らしい歌である。 なお、右近の歌は次の施頭歌の影響を受けている。 |
泊瀬川ふる川野辺に二本ある杉年をへてまたもあひ見む二本の杉 | 古今和歌集 |
う〜んと、ここに出てきた「ふる川野辺」とは、「布留川の川辺」ということ。布留川は初瀬川の支流で、二つの川が合流する辺りに「二本の杉」があったということ。 この写真が二つの川の合流部分であるが、現在では家が建て込んでいて、「野辺」ではなくなっている。 ※現在では長谷寺の境内に「二本の杉」がある。 また、右近が詠んだ歌に添えた詞の『うれしき瀬にも』は次の初瀬川の歌を引歌としている。 |
祈りつつ頼みぞわたる初瀬川うれしき瀬にも流れ合ふやと | 藤原兼輔(古今六帖) |
右近は、きちんと詠み返した玉鬘の歌の実力を認めることになる。 田舎育ちの玉鬘は、この右近との再会により運が開けていく。 |