すさまじきもの 〜歌枕探訪〜


引津(ひきつ)(とまり)(福岡県志摩町)





 天平八年(西暦七三六年)、阿倍継麻呂を大使とする遣新羅使人の一行は、旧暦六月に難波を出航し、瀬戸内海を西に進んだ。
 途中、佐婆の海(周防灘)で暴風のため遭難し、分間の浦(大分県中津市付近)に漂着した。七夕の頃に博多湾岸の筑紫館に着き船団を立て直して荒津を船出したが玄界灘が荒れていたため、韓亭(からとまり)(西区唐泊)で三日間海が静まるのを待った。
 糸島半島を廻って引津亭(志摩町引津湾内)に停泊し、狛島亭(唐津市神集島)から壱岐・対馬を経て朝鮮半島へ渡って行った。

(綿積神社、「万葉の里」の案内板より)












風待ちのために引津湾で停泊したとのことだが、引津湾とはこんなところ。



綿積神社から湾口を望む。
穏やかな海である。



湾奥







GoogleEarthではこんなかんじ



上が玄界灘。引津湾では外海の荒波を避けることができる。
右にあるのが可成山で、これも歌枕。










上記の遣新羅使が引津亭で風待ちした時に詠んだ万葉歌がある。




引津の亭に船泊りして作る歌


草枕 旅を苦しみ 恋ひ居れば 可也の山辺に さ男鹿鳴くも 万葉集

沖つ波 高く立つ日に 遭へりきと 都の人は 聞きてけむかも 万葉集

天飛ぶや 雁を使に 得てしかも 奈良の都に 言告げ遣らむ 万葉集

秋の野を にほはす萩は 咲けれども 見るしるし無し 旅にしあれば 万葉集

妹を思ひ 寐の寝らえぬに 秋の野に さ男鹿鳴きつ 妻思ひかねて 万葉集

大船に 真楫しじ貫き 時待つと 我れは思へど 月ぞ経にける 万葉集

夜を長み 寐の寝らえぬに あしひきの 山彦響め さ男鹿鳴くも 万葉集



引津から出航すると、ついに日本を離れるので、ちょっとホームシックになってるようだ。雁を使にして都で待つ人に言葉を伝えたいとか、女鹿恋しくて男鹿が鳴いているのを聞いて眠られなくなっている。










さて今回訪問したのは、引津湾の南にある綿積神社(福岡県糸島市志摩船越)
ここには「万葉の里」という史跡が整備されている。


参道



社頭



この鳥居は海を越えて可成山に向いている。



鳥居から見た可成山。
上記の万葉歌の一つ目に詠み込まれている。











遣新羅使人以外の万葉歌


梓弓 引津の辺なる なのりその花 摘むまでに 逢はずあらめやも なのりその花 万葉集


綿積神社に歌碑












真ん中あたりの赤いハートマークが綿積神社
右手の山が可成山








可成山は筑前富士と呼ばれているようです。







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