すさまじきもの 〜歌枕★探訪〜 |
檜隈川(奈良県明日香村)
マイナーっぽい銘柄だが、最終的に源氏物語の「葵」の『車争い』につながるという、知る人ぞ知る、明日香村の隠れた歌枕スポットである。 まずは地図を見ていただきたい。 |
黒い矢印の川で、近鉄飛鳥駅の前で高取川に合流する。 高松塚古墳に近いが、明日香村の中心部から離れているため、観光客はまばらである。 (写真) どーってことのない、一般的な明日香村に流れる川の光景。 ![]() ![]() 水路のような川でした。 さて、万葉集に檜隈川を詠んだ歌がある |
さ檜隈 檜隈川の 瀬を早み 君が手取らば 言寄せむかも | 万葉集 | |
檜隈川は流れが速いからと、君の手を取ったら、世間の噂になるかも |
さ檜隈 檜隈川に 馬留め 馬に水飼へ 我れ外に見む | 万葉集 | |
川に馬を留めて水をやってる姿を、私は遠くから見る |
「男性が馬に水をやっている姿を、女性が遠くから見る」という場面であるが、古今集にほぼ同じ内容のものがある。 |
ささのくま ひのくま川に 駒とめて しばし水かへ かげをだに見む | 古今和歌集 |
ところがなんと、源氏物語の「車争い」の場面で、葵の上の従者に車を壊され片隅に追いやられた御息所が、ちょうど通りすぎていく光源氏をみて、 |
・・・笹の隈にだにあらねばにや、つれなく過ぎたまふにつけても、 なかなか御心づくしなり・・・ |
ここは『隈(ものかげ)』には違いないが、また『笹の隈』でさえないからか、 光源氏が馬も止めず、そっけなくお通り過ぎるにつけても、 (全くお姿を拝見しないよりも)かえって物思いの種である。 |
と、「遠くからでいいので姿を見てみたい」という際のキーワードとして檜隈が使用されている。 だからと言って、この明日香村の檜隈川に源氏物語ファンが訪れることもなく、現在も普通の川として誰からも注目されることなく、水が流れていた。 |