すさまじきもの 〜歌枕探訪〜


堀兼の井(ほりかねのい)(埼玉県狭山市)








「堀兼の井」は、実に歌枕らしい歌枕である。

埼玉県下の歌枕の中では断トツの存在感がある。
(「武蔵野」もすごいが、個人的に訪問地は東京都に分類している)




え〜と、「堀兼の井」について摘記してみると、

日本武尊(ヤマトタケルノミコト)が水を求めて井戸を掘ろうとしたが、いくら掘っても水が出なかったため、『掘りかねる』(=ホリカネ)と名づけられたとか

・枕草子にも登場、『井は、ほりかねの井』

・深い井戸なので、思いが「深い」や「浅い」、心の「底」などと掛けた

・「とはずがたり」の作者は実際に現地へ訪問している。『堀兼の井は跡もなくて、ただ枯れたる木の一つ残りたるばかりなり』

・江戸時代以降に堀兼神社の境内に史跡が整備された。社前の道は鎌倉街道

・武蔵野台地は地下水面が低いため関東ローム層の下の五日市砂礫層まで掘る必要があった






こんな「堀兼の井」を詠んだ歌


いかでかは思ふ心は堀かねの井よりも猶ぞ深さまされる 伊勢


むさし野堀兼の井深くのみ茂りぞ増さるよもの夏草 宇治百首


武蔵野堀兼の井もあるものをうれしく水の近づきにけり 藤原俊成(千載和歌集)


武蔵なる堀兼の井の底を浅み思ふ心を何に喩へむ 古今和歌六帖


あさからず思へはこそはほのめかせ堀金の井のつつましき身を 源俊頼


くみて知る人もありなん自ずから堀兼の井のこころを 西行法師(山家集)


昔のみ堀兼の井の思ひ出でてもと見しよりも濡るる袖かな 信生法師日記


いまはわれ浅き心をわすれみずいつ堀兼の井筒なるらん 慈円(拾玉集)


そことなく野はあせにけり紫もほりかねのゐの草葉ならねと 法印尭恵(北国紀行)


おもかげぞかたるに残る武蔵野堀兼の井に水はなけれど 道興准后(廻国雑記)






さすが本格的な歌枕、実にさまざまな歌人が詠み残している。

惜しむらくは、さらに昔、万葉集に入集されていたら、もっと箔が付いていただろうに。







■ 現地訪問



掘兼神社
それまで止んでいた雨が急に強く降り出した



丘の上にある社殿



境内の様子



これが堀兼の井



井戸は埋まっていた



往昔から伝わる名所旧跡の現在の姿である




歌碑がないか探したが、なかった(残念)











江戸名所図会 「堀兼井」 (早稲田大学図書館)

赤い矢印のところが井戸










とは言え、満足度の高い訪問でした






copyright(C)2012 すさまじきもの〜「歌枕」ゆかりの地☆探訪〜 all rights reserved.