すさまじきもの 〜歌枕探訪〜


稲荷(京都市伏見区)




京都市伏見区の伏見稲荷大社は全国の稲荷神社の総本山。
初詣の参拝者数は近畿ナンバーワンの人出を誇る。

本殿の背後の稲荷山には、千本鳥居と呼ばれる神蹟巡拝の参道がある。信者から奉納された鳥居が彼方まで続く景観はまさに圧巻である。

そんな伏見稲荷大社にハイキングがてら行ってきた。
ただ、予想以上の距離があって、大変疲れた。





千本鳥居
(ウィキペディアの写真)


稲荷山頂上付近



ひとりのみ我が越えなくに稲荷山春の霞のたちかくすらん 紀貫之
一人で稲荷山を越えるわけではないのに、春霞が立って稲荷山を隠し、
まるで自分一人だけが春霞の中を行くような気分だ。 









さて、「稲荷」は古代の農耕儀礼において豊穣の象徴であり、「豊穣」は男女の性愛につながる。このことから平安時代、稲荷は男女の出会いを祈願する場所となっていた。人々は男女の出会いを求め、愛を取り戻すため、稲荷詣を行った。

「蜻蛉日記」でも、作者の藤原道綱母は夫の愛情を独占できない苦悩と嘆きを神に訴えるべく、伏見稲荷に参詣する。

この稲荷詣で詠んだ歌はかなりキョーレツな内容。
夫の愛に飢えた藤原道綱母の不満がたまりまくっている。


いちじるき山口ならばここながら神のけしきを見せよとぞ思ふ 藤原道綱母
霊験あらたかな神でいましますなら、お山の入口にある下の御社で、
上の御社の御神意にあやからせていただきとうございます。
 
(訳:「日本の古典を見る『蜻蛉日記』」)



稲荷山多くの年ぞ越えにける祈るしるしの杉を頼みて 藤原道綱母
稲荷山の杉の枝をあやかれるという言い伝えを頼みにした私で
ございますが、長年のお祈りにもかかわらず、御恵みにはまだ
あずかれないようでございます。

(訳:「日本の古典を見る『蜻蛉日記』」)



かみがみとのぼりくだりはわぶれどもまださかゆかぬ心地こそすれ 藤原道綱母
ご利益を願う一念から、喘ぎながら坂道を上ったり下ったりして、
上、中、下の社の神々にお詣りをしておりますが、まだいっこうに
しるしがないように思われます。

(訳:「日本の古典を見る『蜻蛉日記』」)









都名所図会 「伏見稲荷大社」

国際日本文化研究センター







う〜ん、蜻蛉日記はとにかく不満不満で大変やね。







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