すさまじきもの 〜歌枕探訪〜


二見浦(兵庫県豊岡市)





歌枕としての「二見浦」は普通は伊勢国の歌枕として認知されているが、ほかに播磨国と但馬国にも二見浦があり、ややこしい。

どの国の二見浦を詠んだ歌なのか、歌集の配列や詞書などで判断するしかないが、中には一体どこの二見浦なのか分らない歌もある。

まあ、メジャーなのは伊勢国の二見浦なので、分らなかったら伊勢国に分類するしかない。



二見を箱の「(ふた)」と「()」としたり、箱から「玉くしげ」につなげたり、箱の蓋を「明け」たり、同じようなパターンが多い。

今回「二見浦」を調べてみて分ったこと。

それはこの三ヶ所以外にも全国に「二見浦」があり、そこには二つの岩石からなる夫婦岩があり、多くは注連縄(しめなわ)を渡している。そして現在は観光地になっていることである。

一方、歌枕である但馬国と播磨国の二見浦には夫婦岩がない。それどころか、現在では観光地にもなっていない。


わかる範囲でまとめてみた。


【歌枕の二見浦】
名称 夫婦岩 場所 コメント
伊勢二見浦 有り 三重県伊勢市二見町江 朝日の名所
播磨二見浦 無し 兵庫県明石市二見町 埋め立てられて工業地帯へ
但馬二見浦 無し 兵庫県豊岡市城崎町上山 城崎温泉に近い


【歌枕以外の二見浦】
名称 夫婦岩 場所 コメント
豊後二見ヶ浦 有り 大分県佐伯市上浦大字浅海井浦 朝日の名所
桜井二見ヶ浦 有り 福岡県糸島市志摩桜井 夕日の名所、インスタ映え
豊間二見ヶ浦 有り 福島県いわき市平豊間合磯 東日本大震災で女岩が崩壊
出羽二見 有り 山形県遊佐町吹浦西楯 夕日の名所
伊是名村二見ヶ浦 有り 沖縄県伊是名村伊是名 海と陸の岩が対になっている
伊予二見 有り 愛媛県松山市 鹿島沖 岩の間は約33m


「歌枕以外の二見浦」には夫婦岩があり、明らかに伊勢の二見浦を模したものである。

最近の注目は福岡県糸島の桜井二見ヶ浦。若者に人気で、インスタ映えがするらしい。うちの大学生の娘も行きたいって言っていた。


なお、夫婦岩は全国に無数にある。二つ並んだ岩を夫婦と見做して夫婦和合を称揚するもの。全国夫婦岩サミット連絡協議会が結成されてサミットを開催しているようだ。













大きく話がずれてしまったが、今回訪問したのは但馬の二見浦。資料には円山川の河口となっているが、歌碑があるのは河口から8キロも上流にある村の鎮守社のような二見天満宮社の境内。ただし付近には二見谷古墳や二見湧水など二見を冠する地名があり、それなりの由緒があるようだ。

二見天満宮には車を駐める場所がなく、遠くから歩いてたどり着いた。


苔むした境内には木々が生い茂り、深閑として蒼古の趣があった。



鳥居



社殿



これが歌碑


今回間違えたのは、この歌碑が私が求めていた古今集の藤原兼輔が二見浦を詠んだ歌の歌碑でなかったこと。

この歌碑は、古今集の藤原兼輔の歌を偲んで加茂直兄(上賀茂神社の神官)が詠んだ長歌を刻んだものだった。しかも剥落していて読むことができず、現地では分らなかったが、家に帰ってきて資料を整理した時に判明したもの。

加茂直兄の長歌がどんな内容なのかも分らない。

グーグルマップには「二見浦歌碑」とあったので、詳細を調べずに訪問してしまったもの。


なお、古今集の藤原兼輔の歌は次の通り



(詞書)
但馬の国の湯へまかりける時に、ふたみのうらといふ所にとまりて、夕さりの
かれいひたうべけるに、ともにありける人々のうたよみけるついでによめる


夕月夜おぼつかなきを玉くしげ 二見の浦はあけてこそ見め 藤原兼輔(古今和歌集)



え〜と、「但馬の国の湯」とは城崎温泉のこと。二見浦は夜が明けてから見るという内容で、「玉くしげ」から二見の「ふた」を導き、「ふた」を「明ける」につなげている。とてもいい歌だと思う。

この歌を偲んで上賀茂神社の神官が作った長歌はどんなのだろうか。



この古今集の歌を引用して江戸時代の豊岡藩主が詠んだ句


こそ見めの 至りが浦や 所の春 云奴子


結びに「こそ見め」と歌った絶景の二見浦は我が領地であるが、今こそ春たけなわであるといった意味。豊岡藩二代目藩主の京極高住、俳号は云奴(うんぬ)。句碑は豊岡城跡にあるとか。




と、ここまで書いてきて、二見浦の佳景を撮影した写真がないことに気付いた。歌碑のあった二見天満宮への道筋が遠すぎたので、到着して歌碑の写真を撮っただけで満足してしまったのか、どうなのか。





というわけで、グーグルアースのスクショを張っておく。
円山川の対岸には国の天然記念物の玄武洞がある。
















忘れ去られたような歌枕でした







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