すさまじきもの 〜歌枕★探訪〜 |
鏡神社(佐賀県唐津市)
佐賀県唐津市に源氏物語ゆかりの地がある。 鏡山の山麓にある鏡神社で、源氏物語の「玉鬘」に登場。 夕顔の忘れ形見である玉鬘は、築紫の国で大事に育てられた。 成長するにつれて美しくなった玉鬘に多くの求婚者が現れる。 その中でも肥後国の豪族の「大夫の監」が強引に結婚を迫ってきた。 大夫の監が玉鬘に送った歌 |
君にもし心たがはば松浦なる 鏡の神をかけて誓はむ | 大夫監(源氏物語) | |
姫君に対して、もしわたしが心変わりしたならばどんな罰でもうけると、 鏡神社の神にかけて誓いましょう(日本古典文学全集「源氏物語」) |
玉蔓に代わって乳母が返歌 |
年を経て祈る心のたがひなば 鏡の神をつらしとや見む | 玉鬘の乳母(源氏物語) | |
長年の間、姫君のお幸せをお祈りしてきた、その望みがかなわなかったなら、 鏡の神をさぞや恨めしく思うことでしょう(日本古典文学全集「源氏物語」) |
えーと、源氏物語のこの場面は、実はとても緊迫したシーンである。 (内容を箇条書き) ・大夫の監は玉蔓に歌を寄こしてきた。田舎っぽく稚拙な歌だった。 ・返歌担当の乳母の娘は自失して固まってしまった。 ・あんまり時間がたってしまったら失礼なので、乳母は思いつくままに返歌をした。 ・そしたら大夫の監は、なんだその歌は?と訝しんだ。(「 待てや、こはいかに仰せらるる」) ・すると次は乳母が血の気を失ってしまった。 ・乳母の娘は「母はボケてきたので神様の名を入れて変な歌を詠んだのでしょう」と大夫の監に説明した。 ・大夫の監は納得し、さらにもう一首詠もうとしたが、できなかったので帰ってしまった。(「また、詠まむと思へれども、 堪へずやありけむ、往ぬめり」) 上記の箇条書きを読み返したが、せっかくの名場面なのに全く感動が伝わってこない。 紫式部は若い頃から唐津の鏡神社の存在を知っていたらしい。 肥前国に仲の良い友人がいたらしく、歌のやり取りをしている。 父の任地の越前の国で住んでいた頃のこと。 |
あひ見むと思ふ心は松浦なる 鏡の神や空に見るらむ | 紫式部(紫式部集) |
行きめぐり逢ふを松浦の鏡には 誰をかけつつ祈るとか知る | 肥前の知人(紫式部集) |
【現地訪問】 間違えて、鏡山の頂上にある鏡山神社(鏡山稲荷神社)へ行ってしまった。本来の源氏物語ゆかりの神社は鏡神社であり、鏡山の東麓にある。 ![]() これは鏡山神社(鏡山頂上) 鏡山神社には与謝野寛が「五足の靴」メンバーで九州旅行した時に詠んだ歌の歌碑があった。 |
波に聞く松かぜに聞く遠妻やけだし筑紫のわが旅を泣く | 與謝野寛 |