すさまじきもの 〜歌枕探訪〜


可保夜が沼(群馬県渋川市))






上つ毛野(かみつけの)可保夜(かほや)が沼いはゐつら引かばぬれつつ我をな絶えそね 万葉集
上野の可保夜が沼のいわい蔓、引っぱってもほどけて、
私と切れるな(訳:奈良県立万葉文化館) 
 




精選版 日本国語大辞典によると、「いはゐつら」は蔓草の一種。

この歌は、古代のバンジージャンプでロープが切れないように祈っているのかなと最初解釈したが、やっぱり縁が切れないように願う恋歌のようだ。

蔓草が生えていたのは可保夜が沼。場所については諸説あるが、江戸時代の国学者の奈佐勝皐の旅日記である山吹日記では、沼は元々吾妻川の川辺の甲波宿祢神社の境内にあったが天明三年浅間山噴火の泥流により跡形もなくなったとある。

山吹日記は、『単なる旅行記ではなく、土地の歴史・伝承・文化財等についてあらかじめ研究し、現地に行ってさらに深めるという学究的態度に貫かれている』(コトバンク)とのことで、それなりの信憑性がありそうだ。


現在、甲波宿祢神社は山辺に遷座されているが、川辺には旧社地が遺構として残っている。






■ 甲波宿祢神社の旧社地に行ってみた。


これが旧社地。グーグルマップでは「甲波宿禰神社 古社地」として登録されている



石碑には「波宿禰神社」の刻印がある



すぐ横を上越新幹線が通る。少し待っていたが、新幹線は通らなかった



この向こうに吾妻川が流れている



ここに甲波宿禰神社があり、境内に可保夜が沼があった


そして天明の浅間山大噴火の泥流で神社は流され、沼は埋まってしまったということ





可保夜が沼は、平安時代にも詠まれている


東路のかほやが沼杜若 春をこめても咲きにけるかな 藤原顕季(金葉和歌集)


これによると可保夜が沼にはカキツバタも生えていたようだ












川に近すぎるので、大噴火の泥流でなくても、
大雨による洪水でも流されそうな場所です





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