すさまじきもの 〜歌枕探訪〜


風早の浦(広島県東広島市)







遣新羅使歌の歌枕



天平8年、新羅国へ派遣された遣新羅使たちの船は風早の浦、現在の安芸津の湾内に停泊した。


この辺りの海域は秋から冬にかけて海霧がよく発生するらしく、現在では海上を霧が棚引く幻想的な光景は観光化して全国からカメラマンが訪れるらしい。


遣新羅使が、海霧が立ち込める風早の浦で詠んだ万葉歌が伝わっている。



風早の浦に船泊りする夜に作る歌二首」

我がゆゑに妹嘆くらし風早の 浦の沖辺に霧たなびけり 万葉集

沖つ風いたく吹きせば我妹子が 嘆きの霧に飽かましものを 万葉集


祝詞山八幡神社に上記二首の歌碑




都に残してきた妻の嘆きのため息を海霧に例えている。
実は、同じ万葉集にこの妻の作詠とされる、旅立つ夫へ贈った歌がある。



君が行く海辺の宿に霧立たば 我が立ち嘆く息と知りませ 万葉集


海霧が立ったら私のため息と思ってください、という内容で、この夫婦の歌はうまく呼応できている。


と言うか、妻は予め停泊地の風早の浦に海霧が発生する季節的地理的な特徴を知っていたのか、どうなのかよく分らないが、夫としては発生した海霧を見て、「これは使える!」と勢い込んで海霧の歌を作ったのだろう。



結果として、千年を超えて夫婦のウイットに富んだ相聞歌が現在に伝わることになった。










そんな風早の浦を訪問してきた


JRの駅、「風早駅」



まさに歌枕そのものの駅名



風早駅前から風早の浦を望む
湾になっていて、船が停泊するのに適しているようだ






近くの祝詞山八幡神社に万葉史跡が整備されているらしいので行ってみた
(東広島市安芸津町風早 丸日面 368)



境内から風早の浦を眺望
往昔は手前の住宅地まで海だった



これが万葉史跡、すごく立派だった



上掲二首の歌碑



そしてこれが遣新羅使の万葉歌に因んだ陶壁



  
拡大写真、左が遣新羅使の夫と後ろに船、右はその妻





陶壁は1988年、竹下首相のふるさと創世事業で交付された1億円で作成されたとのこと














この万葉故地は海霧とセットで観光地化したらいいと思います







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