すさまじきもの 〜歌枕探訪〜


吉備の中山(岡山市北区)





吉備の中山は、多分岡山県ナンバーワンの歌枕だろう。
岡山県の歌枕をちょっと思い浮かべてみると、なるほど大嘗会の関連で詠まれた土地は多いけれど、いわゆる歌枕らしい歌枕は少ない。
メジャーな歌枕では、先ず備前国で、虫明の瀬戸牛窓ぐらいかな?吉備の児島はイマイチパンチがない。
備中国では、ここ吉備の中山細谷川かな。有木山はどうもマイナー。
美作国は、久米皿山があるが二線級。惜しいのは黒髪山宇那堤の森。どちらも大和国に同名の歌枕があり、決定打がない。

こうやって考えてみると、吉備の中山は不動の四番バッターのような存在である。




往古、まだ吉備国が分割される前、吉備の中山は吉備国の中心にあった山で、麓には吉備津神社が鎮座し、山全体が神域として崇敬されていた。
神威の盛名は都にも達し、吉備の名所として知られることとなった。

ただし和歌の世界では、古今和歌集の次の歌が吉備の中山のイメージに大きな影響を与えた。

真金吹く吉備の中山帯にせる細谷川の音のさやけさ 古今和歌集
鉄を精錬するという吉備の中山が帯のようにまわりにめぐらしている
細谷川の音のなんとすがすがしいことであろうか。(歌枕歌ことば辞典) 

真金吹く(まがねふく)は吉備の枕詞。鉄を精錬する作業のことで、昔から吉備国は鉄の山地として有名であった。
細谷川を帯に見立てているのも特徴。




吉備の中山を詠んだ歌


雪ふかみきびの中山跡絶て けふはまがねを吹くや煩う 俊恵法師


誰かまた年へぬる身をふりすてて 吉備の中山越えむとすらん 清原元輔


春くれば麓めぐりの霞こそ とは見ゆれ吉備の中山 小侍従(歌枕名寄)


ときはなる吉備の中山おしなべてちとせを松の深き色かな 新古今和歌集


真金吹く音絶えにけり五月雨の 日数ふりゆく吉備の中山 藤原道経(夫木和歌抄)


夏虫の細谷川を照らす夜は 玉のする吉備の中山 源仲正(夫木和歌抄)


真金吹く吉備の中山越え暮れて ならはぬかたは道や迷はむ 後鳥羽上皇
ならはぬかた・・・不案内なところ


鶯の鳴につけてもまがね吹き きびの山人春をしるらん 藤原顕季


へだててはいとどうくとぞなりぬべき まかねふくなる吉備の中山 和泉式部続集


吉備津彦 神の社の もみぢ葉は 弥ますますに 色濃くなりぬ 平賀元義








■ 現地を訪問






土産物屋には赤鬼が登場



吉備津神社



本殿



これは西麓を越える道で、吉備の中山と呼ばれる。



そのすぐ下を流れる川は細谷川とされる。
















大満足の訪問でした






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