すさまじきもの 〜歌枕★探訪〜 |
紀三井寺(和歌山市)
西国三十三ヵ所巡りの二番札所。 この春、妻とドライブがてら初めて行ってきた。 もともと、そんな大したとこではないだろうとの偏見があって、あまり期待をせずに行ったのだが、案に相違して本当に素晴らしいところであった。 桜も咲き始めで、ちょうどタイミングがよかった。 ![]() 楼門。なんとも言えない賑やか感があった。 ![]() 楼門を入ると231段の急な石段が出現。 ![]() ちょっと急すぎ! ![]() 紀三井寺の名前の由来は、三つの清水があるということらしい。 参道石段の横にあるのが「清浄水」。 他に「楊柳水」と「吉祥水」がある。 ![]() 石段を上がりきったところにある、これが本堂。もう一週間遅かったら見事な桜が見れたであろう。 ![]() ![]() 外国人の観光客も多かった。 古典文学的には、あんまり紀三井寺って登場しないけど、何でやろ。 紀三井寺の位置する「名草山」は対岸の「和歌の浦」と相まって万葉歌以来、多くの和歌に詠み込まれているのだが、紀三井寺となると探してもあんまり出てこない。 そんな中で、お約束の芭蕉の句 |
見上げれば桜しまうて紀三井てら | 松尾芭蕉 |
若山牧水はこんなかんじ |
麓には潮ぞさしひく紀三井寺 木の間の塔に青し古鐘 | 若山牧水 |
「潮ぞさしひく」のは和歌の浦のこと。 この歌を写真にするとこうなる。 ![]() 和歌の浦から撮影。赤線の円内に紀三井寺。 あと、夏目漱石の「行人」にも出ているとのこと。 学生時代、自称文学青年だった私は漱石に耽溺し、とくに後期三部作をひたすら愛したものだった。後期三部作のひとつ、「行人」は今でも私の中で生涯ベスト5に入るような素晴らしい内容であった。 (何事も内側にとぐろを巻きこむ難しい性格の主人公がおったけど) そんな「行人」に紀三井寺が登場するのがこのベンチ! ![]() 「ことに有名な紀三井寺を蓊鬱した木立の中に遠く望む事が出来た。その麓に入江らしく穏やかに光る水が又海浜とは思われない沢辺の景色を、複雑な色に描き出していた。」 「自分達は母の見ただけで恐れたという高い石段を一直線に上った。その上は平たい山の中腹で眺望の好い所にベンチが一つ据えてあった。本堂は傍に五重の塔を控えて、普通ありふれた仏閣よりも寂があった。」 「自分達は何物をも遮らないベンチの上に腰を卸して並び合った。 『好い景色ですね』 眼の下には遙かの海が鰯の腹のように輝いた。其処へ名残の太陽が一面に射して、眩ゆさが赤く頬を染める如くに感じた。沢らしい不規則な水の形もまた海より近くに、平たい面を鏡のように展べていた。」 夏目漱石「行人」より 帰りは急な石段を降りることになる。 ![]() |
ふるさとをはるばるここに紀三井寺花の都も近くなるらん | ご詠歌 |