すさまじきもの 〜歌枕探訪〜


桐原牧(きりはらのまき)(長野県長野市)





朝廷の牧場である、勅旨御牧からの馬の献進の儀式である「駒牽(こまひき)」や、それら馬を逢坂山で迎える「駒迎(こまむかえ)」などは、宮中の秋の行事として歌に詠まれることが多かった。


馬の産地は東国が中心となっていて、特に信濃国には多くの勅旨御牧があったが、その中でも望月牧が抜きん出て存在感があった。それは「駒牽」の宮中行事が8月15日の満月の日におこなわれるのにちなんで、御牧の名称を“望月”と名付けたことからも窺える。


望月牧を詠んだ歌のほとんど全てが、時期は秋、駒牽の行われる御所や、駒迎の逢坂山との組み合わせで詠まれたものとなっている。


信濃国に望月牧はあれど、そこまで実際にやってきて歌を詠むようなものではなかった。


望月牧に比べて圧倒的に数がすくないが、同じく信濃国の桐原牧も京の都の秋の歌として詠まれている。


立ち馴れし三世の雲井を今更に隔てて見つる霧原の駒 藤原定家(明月記)


返し
時の間を隔てて鳴くらん立ち馴れし雲井に近き霧原の駒 日野資実(明月記)


雲居より此方彼方へ引分のつかひは誰ぞきりはらの駒 弁内侍


うちむれておはなあしけの秋のたちわたりけるきりはらの野へ 源国信(嘉応三年内裏歌合)


逢坂の関の岩かど踏みならし山たちいづるきり原の駒 藤原高遠(拾遺和歌集)



「きり(霧)」がら「雲」を連想したり、「霧」が「立つ」とつないだりしている。

















桐原牧があった場所に、現在は桐原牧神社が鎮座
(長野市桐原一丁目26番33号)
Wikipediaによると、拝殿には「敬神愛国」ならぬ「敬神愛」という行灯が掲げられているらしい















御牧跡にふさわしく、境内には神馬像があった。





















これはこれで満足度の高い訪問でした。






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