すさまじきもの 〜歌枕★探訪〜 |
小倉(福岡県北九州市)
2019年8月、九州福岡県への旅行の前に、福岡県ゆかりの本を久しぶりに読み直した。「放浪記」(林芙美子)、「点と線」「或る『小倉日記』伝」(松本清張)であるが、どれも傑作の評判通りの読後感があった。 その中で「或る『小倉日記』伝」は芥川賞を受賞した稀代の名作である。 明治の文豪、森鴎外は生涯にわたり日記を付けていて、それは鴎外研究の基礎資料となっていた。ところが鴎外が軍医として小倉に赴任していた3年間の日記は行方不明となっていた。 「或る『小倉日記』伝」の主人公は、鴎外の小倉時代の足跡を訪ね、欠けたる日記の補完作業に勤しむというストーリーであるが、主人公は生まれつき身体の一部が麻痺していて、徐々に衰弱していき、完成を前に死んでしまう。 ところが、その直後に鴎外の親類宅から小倉時代の日記が発見されるという話で、『日記の出現を知らずに死んだのは、幸か不幸かわからない』、と結ばれている。 松本清張は当時小倉に住んでいて、朝日新聞西部支社に勤めていたが、この作品の芥川賞受賞をきっかけに上京することになった。 その森鴎外であるが、明治33年、陸軍の西部第12師団(小倉)の軍医部長として赴任している。小倉ではアンゼルセンの即興詩人の翻訳をしたり、そこそこの文学活動をしていたようだ。市内には森鴎外が過ごした住宅が保存されている。 ■森鴎外旧宅 ![]()
![]() 後年に書いた小説「鶏」はこの家を舞台にしているとか。 ![]() 鴎外の胸像がお出迎え。 ![]() 内部 なんと、小倉の森鴎外を詠んだ短歌がある。 |
春いまだ寒き小倉をわれは行く鴎外先生おもひ出(いだ)して | 斎藤茂吉 |
小倉には、そのほかにも鴎外関係の史跡が整備されているが、勝山公園にある「森鴎外の碑」には森鴎外の日記や文芸作品のうち小倉に関係する短文を5面にわたって刻んでいるらしく、興味深い。 次回はぜひ訪ねてみたい。 |
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