すさまじきもの 〜歌枕探訪〜


鞍馬山(くらまやま)(京都市左京区)







鞍馬山はビッグネームの歌枕である。

都に近く、多くの歌人が参拝していて多彩なエピソードが伝わっている。

いろいろと書くことが多いが、まずは基本的なところを摘記したい。







・鞍馬山は京都市左京区鞍馬にある山で、標高584m

・古くから霊山として知られ、密教の山岳修験の場として栄えた

・770年、中腹に鞍馬寺が創建される、山号は鞍馬山

・歌枕。別称は暗部山(くらぶやま)。歌語として暗部山のほうが定着

・「暗し」「くらべる」に掛ける。また「桜花」「ほととぎす」「梅の花」「月」とともに詠まれる

・清少納言、菅原孝標の女、赤染衛門らが著書に鞍馬山参詣の様子を記す

・紫式部は源氏物語に「なにがし寺」として鞍馬山を登場させる

・源義経(幼名牛若丸)は夜に僧正ヶ谷で天狗に兵法を授けられる

・謡曲「鞍馬天狗」がある

・鞍馬の火祭は有名

・あと、キーワードは「九十九折り」「雲珠(うず)桜」「木の根道」

・奥の院参道は西麓の貴船神社へ至るハイキングコースとなっている




こんなところかな












え〜、とりあえず鞍馬山、暗部山を詠んだ歌の紹介


秋の夜のの光しあかければ くらぶの山も越えぬべらなり 在原元方(古今和歌集)


梅の花匂ふ春べは暗部山 に越ゆれど(しる)くぞありける 紀貫之(古今和歌集)


わがきつる方もしられずくらぶ山 木々のこのはのちるとまがふに 藤原敏行(古今和歌集)


わが恋にくらぶの山桜花 まなく散るとも数はまさらじ 坂上是則(古今和歌集)


君が()くらぶの山ほととぎす いづれあだなる声まさるらむ 後撰和歌集


すみぞめの鞍馬の山に入る人は たどるたどるも帰りきななむ 後撰和歌集


昔よりくらまの山といひけるは わがごと人もや越えけむ 後撰和歌集


さつき鞍馬の山ほととぎす おぼつかなしやはのひとこゑ 藤原清正


鞍馬山暗く越ゆればほととぎす かたらふこゑをそれと知らずや 藤原清正


おぼつかな鞍馬の山の道知らで 霞の中に惑ふ今日かな 拾遺和歌集


すみなるる都ののさやけきに なにか鞍馬の山は恋しき 齋院中務(後拾遺和歌集)


鞍馬山木のしたかげの岩躑躅 ただこれのみやひかりなるらむ 崇徳院










★ 源氏物語、第五帖 若紫


光源氏は熱病に罹った。

ある人から「北山になむ、なにがし寺といふ所」に素晴らしい修験僧がいるので治してもらったらと勧められた。

このなにがし寺というのが鞍馬寺のこと

「すこし立ち出でつつ見渡したまへば、高き所にて、ここかしこ、僧坊どもあらはに 見おろさるる、 ただこのつづら折の下に、同じ小柴なれど、 うるはしくし渡して、清げなる屋 ・・・ 」

光源氏は少し散歩に出掛けられた。高いところから見渡すと僧坊などが見渡すことが出来る。九十九折(つづらお)の坂の下に小ぎれいな建物があって ・・・

そして、朝方になって、寺の勤行とともにの音が聞こえてきた

吹きまよふ深山おろしに夢さめてもよほすの音かな 光源氏(源氏物語)

光源氏が聞いたのは、「涙の滝」の音
「涙の滝」は現在も魔王の滝の近くにあるという(写真無し)




ケーブルカーに乗らず、鞍馬寺へ歩いて行くには、九十九折りの坂道を上ることになる








★ 清少納言、枕草子

「近うて遠きもの、くらまつづらをりといふ道」








九十九折りの歌、続く


うず桜のこる鞍馬つづらをり行くかとみれば帰る春かな 木下長嘯子(挙白集)















■ 現地訪問




出町柳駅から叡山電鉄鞍馬線に乗る



鞍馬駅にて下車



鞍馬の天狗のオブジェがあった



山門の仁王門からスタート



訪問したのは10月22日。ちょうど火祭りの当日だった
午前中だったので準備中だった
火祭や鞍馬も奥の鉾の宿 青瓢




鞍馬寺から南方向を眺望



本殿金堂
人が立っている場所がパワースポットらしい



奥の院参道を行く
「義経公背比べ石」があった
源義経は背が低かったようだ

何となく君にまたるるここちしていでし花野の夕月夜かな 与謝野晶子
遮那王が背くらべ石を山に見てわが心なお朝日を待つかな 与謝野寛


背比べ石の傍らに二首の歌碑






木の根道
地殻が難いので、木の根が土の中に伸びることができなかった
牛若丸もこの木の根道で兵法修行をしたとか
「八艘飛び」はここで習得したのかな

下に這う鞍馬の山木の根見よ 耐えたるものはかくのごとき 与謝野寛





鹿がいた



義経堂



謡曲「鞍馬天狗」
「花咲かば、告げんと言ひし山里の、告げんと言ひし山里の、使いは来たり馬に鞍、鞍馬の山の雲珠桜(うすざくら)手折枝折(たおりしおり)をしるべにて、奥も迷はじ咲き續く、木蔭に並み居ていざいざ、花を眺めん」



ここが僧正ヶ谷
鞍馬天狗が源義経に兵法を教えたところ
少年の義經のこともいめのごとき僧正谷にわれの汗垂る 斎藤茂吉



魔王殿
太古、護法魔王尊が降臨した磐坐・磐境として崇拝さ れてきた



ここから坂道を延々と下りていくと西門があって、貴船神社に至る









都名所図会 「鞍馬寺」

国際日本文化研究センター













鞍馬山が都の貴族に愛された理由は、

 @都から近いのに大自然
 A仏教信仰の拠点であり、僧坊で宿泊可能
 B鞍馬山は500メートル程度の標高だが、鞍馬寺は中腹にある
  (比叡山、愛宕山は山頂まで上る必要がある)

他の場所に比べて、お手軽に行けたのだろう







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