すさまじきもの 〜歌枕★探訪〜 |
黒髪山(岡山県新見市)
![]() 新見市の市街地から撮った黒髪山。 泊ったビジネスホテルの窓からちょうど見えた。 山間部の地方都市にはどこにでもあるような山であった。 但し昔は山頂近くに青龍寺という古刹があって、四季の景趣に優れていたようだ。 地元の地誌の「阿哲郡誌」には、『春は若葉によく花によし。夏は風涼しく水清冽にして避暑に適し、数日をこの山上に過さんか夏の苦暑を忘れ、俗塵を脱却して心身の暢然たるを覚ゆ。秋は紅葉の美あり、冬は白雪の大観に富む。』と記されているとのこと。 また、黒髪山と云うネーミングも良い。 白髪にならず黒々とした髪、豊かに木々が繁っているような若々しい髪を連想させる。縁起が良いとされてきた。 古来、歌枕として詠まれてきた。 |
ぬばたまの黒髪山を朝越えて山下露に濡れにけるかも | 万葉集 |
ぬばたまの黒髪山の山菅に小雨降りしきしくしく思ほゆ | 万葉集 |
色かへぬ黒上山の山かつら かくてやひさにつかへまつらん | 藤原行家(新千載和歌集) |
わが君は久にましませぬば玉の黒髪山のいろもかはらで | 藤原清輔(秋風抄) |
旅人のますげの笠やくちぬらん 黒髪山の五月雨のころ | 玄賓僧都 |
えーと、「ぬばたま」は黒に掛かる枕詞 『黒髪山』は奈良県奈良市にもある。一つ目の万葉歌は多分奈良県の『黒髪山』だろう。 三つ目、四つ目の歌は大嘗会の賀歌として詠まれたもの。 いつまでも黒い髪の色が変わらないのが慶ばしいというかんじ。 まあ、こんな田舎都市にある普通の山が、京の都の歌人たちに知られていたとは驚きである。 |