すさまじきもの 〜歌枕探訪〜


馬籠宿(まごめしゅく)(岐阜県中津川市)







長野県と山梨県方面の文学史跡を巡る旅に出たのは2021年の夏のこと。

私は訪問に先立って、訪問地を舞台にした文学を予め読んでおくことにしている。

今回詠んだのは、「風立ちぬ」(堀辰雄)、「風林火山」(井上靖)、「真田太平記」(池波正太郎)、そして「夜明け前」(島崎藤村)などである。

「夜明け前」は学生時代に読み始めたが途中で断念した経緯があったものの、今回は本当に楽しく、興味深く読めた。

そして読後の高揚感と共に「夜明け前」の舞台である馬籠宿へ向かったのだが。。。

2021年に小説「夜明け前」を読み、そして馬籠宿に訪問したが、それから幾星霜ではないが、現在パソコンを打っているのは2024年の正月。
小説の内容も登場人物も忘れてきた。







「夜明け前」冒頭
木曽路はすべて山の中である。
あるところは(そば)づたひに行く崖の道であり、あるところは数十間の深さに
臨む木曽川の岸であり、あるところは山の尾をめぐる谷の入口である。
一筋の街道はこの深い森林地帯を貫いてゐる。東ざかいの桜沢から、西の
十曲峠(じっきょくとうげ)まで、木曾十一宿はこの街道に添うて、二十二里余にわたる
長い谿谷(けいこく)の間に散在していた。
島崎藤村
(夜明け前)


馬籠ふるさと広場に「夜明け前」文学碑


拡大写真






小説は、有名な「木曾路はすべて山の中である」の書き出しで始まる。
冒頭、長く馬籠宿を切り盛りしてきた吉左衛門と金兵衛が登場する。
そして金兵衛は、俳諧好きだった親父の供養のために松尾芭蕉の句碑建立を思い立ち、石屋に彫らせていた句碑を見るために吉左衛門を誘った。


送られつ 送りつ果ては 木曾(あき) 松尾芭蕉


「これは達者たっしゃに書いてある。」
「でも、この秋という字がわたしはすこし気に入らん。(のぎ)へんがくずして書いてあって、それにつくりが(かめ)でしょう。」
「こういう書き方もありますサ。」
「どうもこれでは木曾の(はえ)としか読めない。」



え〜と、「秋」という字を「(あき)」と彫らせたために、「木曽の(はえ)」と読めてしまうというもの。

せっかくの親父の供養であったが、なんとも悲しいエピソードとなった。


金兵衛が建立した句碑が新茶屋にあった
たしかに「蠅」と読めた



「是より北 木曽路」の石碑
島崎藤村の筆らしい



新茶屋とは、馬籠宿から南の落合宿の間にある茶店のことで、小説によく登場する。





新茶屋 ( 岐阜県中津川市馬籠荒町5110)
現在も旅館として営業しているようだ



写真を確認したところ、朝の6時50分の撮影である。
前日夜に大阪を出発し、サービスエリアで車中泊をしたもの。



馬籠宿へ訪問
南方向(坂の下)から宿場町へ入っていった
早朝だったので観光客はいなかった










山の尾根沿いに発展した宿場町だった





本陣は明治時代に火事で焼失
跡地に藤村記念館が建てられた
早朝のため閉まっていた



そしてこれは大黒屋、「初恋」のおゆうさんの家


まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり
島崎藤村
(初恋)

















その他、馬籠宿関連


渋皮の剥けし女は見えねども 栗のこはめしここの名物 十返舎一九(木曽街道膝栗毛)



桑の実の 木曽路出づれば 穂麦かな 正岡子規(かけはしの記)



街道の 坂に熟れ柿 灯を点す 山口誓子



















【馬籠宿からの眺望】


iPhoneのパノラマモード


正面は恵那山、右手は中津川





恵那山(2192m)


長歌
みすず刈る信濃の国真木(まき)立つ木曽谷の外名に負へる神坂の邑は
山並みの宜しき里川の瀬の清(さや)けき里ぞ春去れば霞たなびき
()く花に鳥は数鳴き秋立てば霧たちわたる往く水を月こそ照らせ
四つの時(めぐ)り来へつつ山河の眺めは断えず尽きせざるらし
島崎正樹

反歌
恵那の山高く(そび)えて渓川(たにがわ)の清く流るる里よろしも 島崎正樹


馬籠 陣場上展望台に歌碑


島崎正樹は、島崎藤村の父親で、「夜明け前」の主人公、青山半蔵のモデル









「あの山の向こうが中津川だよ美濃は好い国だねぇー」(夜明け前)


















木曽海道六十九次 「馬籠」

Wikipedia





木曽街道中膝栗毛 「馬籠 早稲田

早稲田大学図書館











2005年の平成の大合併で、長野県から岐阜県(中津川市)に変わりました





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