すさまじきもの 〜歌枕★探訪〜 |
真土山(奈良県/和歌山県)
真土山(まつちやま)「は奈良県と和歌山県の県境に位置する山のことであるが、「歌枕歌ことば」(片桐洋一著、笠間書院)では大和国の歌枕と紹介されている。 ただし現在は和歌山県橋本市の隅田町に真土の地名がある。 この地は古代に南海道が通り、大和から紀伊の国へ旅する万葉歌人たちが多くの秀歌を残した。 真土山、なんともマイナーっぽい響きの歌枕の地であるが、行ってみるとなんとまあ、歌碑は有りまくり、案内板も乱立、見学者用の休憩所も整備され、おまけに万葉キャラクターまであった。 行政の支援を垣間見た、現在の万葉ゆかりの地であった。 ![]() 峠へ続く道、古代の南海道 ![]() これも。 今では村の中の生活道路 |
大君の 行幸のまにま もののふの 八十伴の男と 出で行きし 愛し夫は 天飛ぶや 軽の路より 玉たすき 畝傍を見つつ あさもよし 紀路に入り立ち
真土山 越ゆらむ君は 黄葉の 散り飛ぶ見つつ にきびにし 我れは思はず 草枕 旅をよろしと 思ひつつ 君はあらむと あそそには かつは知れども しかすがに
黙もえあらねば 我が背子が 行きのまにまに 追はむとは 千たび思へど 手弱女の 我が身にしあれば 道守の 問はむ答へを 言ひやらむ すべを知らにと
立ちてつまづく (万葉集) |
|
![]() |
真土山は国の境ということであるが、山の中に落合川という谷川が流れており、この落合川が大和と紀伊の国を分けていた。つまり、峠を越え、谷川を渡り、さらに峠を越えて国境を越えたもの。(ラクダのコブ型)![]() いったん峠を越えて、ここから降りて行く。 ![]() いかにもっぽい道になってきた。 |
石上 布留の命は 手弱女の 惑ひによりて 馬じもの 縄取り付け 獣じもの 弓矢囲みて 大君の 命畏み 天離る 鄙辺に罷る 古衣 真土の山ゆ 帰り来ぬかも (万葉集) |
|
![]() |
橡(つるはみ)の衣解き洗ひ真土山本つ人にはなほしかずけり | 万葉集 |
![]() |
万葉モードが高まる中、万葉池が出現。 ただし、訪問日は初冬であったため、大賀蓮も見る影もない状態。 ![]() ![]() 12月中旬であったが、手前の白いところは凍っている。 ここで滑ったら下まで落ちていくだろう。 |
いで吾が駒早く行きこそ真土山待つらむ妹を行きて早見む | 万葉集 |
![]() |
階段を下りるとそこには大和と紀伊の国の国境である落合川がながれていた。川を渡るには石を飛び越えていかねばならず、この石を古来「飛び越え石」と呼んでいる。![]() 手前の石が「飛び越え石」 (和歌山側から撮影) ![]() 奈良側から撮影 飛ぶほどの距離ではなく、大人の足の歩幅で十分に渡れた。 ![]() これは紀ノ川沿いの中央構造線でよく見かける 緑色片岩という深成岩が露出したもの。 いや〜、万葉気分も頂点に達し、何度もこの「飛び越え石」を渡った。 誰かに見られたら本当に恥ずかしい光景であったろう。 ![]() 「とびこえ休憩所」なるものがあり、休憩スペースとトイレが整備されていた。記名帳があったので、記念に記帳した。 |
麻裳よし 紀へ行く君が 信土山 越ゆらむ今日そ 雨なふりそね | 万葉集 |
紀の国へ行く君が今日真土山を越えているころであろう。雨よ降ってくれるな | |
![]() |
なぜか、飛び越え石はこのあたりのキャラクターになっている。![]() これは「岩とびペンギン」。町じゅうに看板があった。 それからコレ! ![]() JR隅田駅の駅舎はこんな感じにペインティングされ ていた。セーラー服の少女が岩を飛び越えている。 |
あさもよし 紀人羨しも 亦打山 行き来と見らむ 紀人羨しも | 万葉集 |
紀伊の人は羨ましい。この真土山を行くにつけ来るにつけ 見ることが出来る紀伊の人は羨ましい。 |
|
![]() |
あまり下調べをせずに訪問したが、テンポよく歌碑に巡り合えた。 ただし、あと二カ所ほど、スルーした歌碑があるので、再訪してみたい。 |
******
【後日談】
紀ノ川万葉路めぐりでJR橋本駅に行ったときに
真土山の歌碑を駅前ロータリーで発見。
これまた立派なものだった。
白栲に にほふ信土の 山川に わが馬なづむ 家戀ふらしも | 万葉集 |
信土山の川(落合川)で、私の乗る馬が難渋している。家人が私を心配しているらしい | |
![]() |