すさまじきもの 〜歌枕★探訪〜 |
耳成山(奈良県橿原市)
大和三山の一つ。 標高139.6メートル。本当にきれいな円錐形の山で、顔の耳の部分が無いような、という意味で「耳なし」山と呼ばれた。 ![]() 明日香村の山田道から撮影。 真ん中の小さな山が耳成山。(手前右が天香具山) ![]() さすがに地形図の等高線はきれいな同心円になっていない。 ![]() 登山道もあったが、登らなかった。 こんな耳成山を詠んだ歌が古今集に残っている。 |
耳成の山のくちなし得てしがなおもひの色のしたぞめにせむ | 古今集 | |
(私訳)耳成山のくちなしの花を欲しいもんだ。 それで、想っている気持ちを下染めにしたい。 |
じつは上代から中世にかけて、「耳成山」そのものを詠んだ歌はあんまり残っていない。 そんな中、「耳成の池」にまつわる歌が数首万葉集に収録されている。 現在、耳成山の南麓に「耳成公園池」があるが、これは万葉集に詠まれたものではないらしい。万葉集で詠まれた「耳成池」は耳成山の西麓にあったが、すでに埋め立てられたようだ。(「大和名所図会」より) これは「耳成公園池」。市民の憩いの公園になっていた。 ![]() ![]() 池の向こうに近鉄大阪線が走る。 ![]() さて、耳成池の万葉歌はストーリーがある。 ・あるところにきれいな美女がいました ・男三人が美女に恋して求婚しました ・三人から求婚された美女は困惑して、耳成池に身を投げました 美女が死んだあとに男たちがやってきて、それぞれ歌を詠みました |
耳成の池し恨めし我妹子が来つつ潜かば水は涸れなむ | 万葉集 | |
(私訳)耳成池が恨めしい。あの娘が身を投げたときに、 池の水が枯れたらよかったのに。 |
あしひきの山縵(やまかづら)の児今日行くと吾に告げせば還り来ましを | 万葉集 | |
(私訳) あの娘が今日出掛けると私に言ってくれてたら、 助けて帰ってきたものを |
あしひきの玉縵の児今日の如いづれの隈を見つつ来にけむ | 万葉集 | |
(私訳)あの娘はいったいどこで死のうとして歩いたのだろうか、 というようなことを考えて今日私も同じような道を歩いている。 |
古代にはこんな話が多いね。 |