すさまじきもの 〜歌枕探訪〜


(むろ)八島(やしま)(栃木県栃木市)








2024年夏、盆休みを利用して北関東へ歌枕探訪の旅に出た。

群馬県、埼玉県の歌枕を巡る計画を立てていたが、どうしても「室の八島」へ訪問したくなり、一部計画を修正して栃木県にも足を伸ばすこととした。

「室の八島」は栃木県を代表する歌枕、というか栃木県で唯一の全国レベルの歌枕、歌枕らしい歌枕の地である。

松尾芭蕉の「奥の細道」では旅の最初の目的地とされている。

「室の八島」とは、東国下野国(しもつけこく)の地に、八つの島が浮かぶ池があり、池からは煙が立っている、煙は燃える恋の思い、そんなイメージの歌枕。

最初に歌枕関連の本で「室の八島」を読んだ時、まったく意味が分からずイメージできなかった。不思議な歌枕。

古来、多くの歌人が恋の歌を詠み残しているが、実際に現地まで行ったのは陸奥守へ左遷された藤原実方ぐらいか。(あと芭蕉も)

それとも「室の八島」は実は宮中の竈の部屋を表す隠語であったものが、いつしか下野国の八島にこじつけられたという説も有力。「竈」なので煙が立つものとされた。

とにかく現地に行って、本当に池から煙が立っているのか見てみたいと、その日、群馬県の伊勢崎から栃木県へ車を走らせた。










【 現 地 訪 問 】



大神神社(栃木市惣社町477) ・・・ 式内社であり、下野国総社
境内に「室の八島」がある

参道が長く続いていた



社殿




境内に「室の八島」がある



拡大図、池に八つの島があり、それぞれに各地の神社が勧請されている



「室の八島」、ここからスタート



■筑波神社



■太宰府天満宮



■鹿島神社



■雷電神社



■富士浅間神社



■熊野神社



それまでは石橋を渡っていたが、ここは欄干つきの太鼓橋が架かっていた



■二荒山神社



■香取神社




八つの島に各地の有名神社を勧請して祠を建てているが、神社のチョイスが絶妙(?)である。


地元の二荒山神社、東国なので、筑波神社、鹿島神社、雷電神社、富士浅間神社、香取神社、というのは理解できるが、九州の太宰府天満宮や紀州の熊野神社はいささか違和感がある。


これが現在の「室の八島」であるが、池からは煙など立っていなかった。早朝や、季節や、湿度などの関係で霧のようなモノが出るのだろうか。











「室の八島」を詠んだ歌


いかでかは思ひありともしらすべき室の八島けぶりならでは 藤原実方


境内に歌碑



人を思ふ思ひを何にたとへまし室の八島も名のみ也けり 源重之女



下野室の八島に立つ思ひありとも今日こそは知れ 大江朝綱



絶えず立つ室の八島かないかに尽きせぬ思ひなるらむ 藤原顕方



けぶりかと室の八島を見しほどにやがても空のかすみぬるかな 源俊頼



恋ひ死なば室の八島にあらずとも思ひの程はにも見よ 藤原忠定



風吹けば室の八島のゆふけぶり心の空に立ちにけるかな 藤原惟成



いかにせん室の八島に宿もがな恋のを空にまがへん 藤原俊成



暮るる夜は衛士のたくをそれと見よ室の八島も都ならねば 藤原定家



たつ室の八嶋にあらぬ身はこがれしことぞくやしかりける 大江匡房


境内に歌碑



ながむれば寂しくもあるか立つ室の八島の雪の下もえ 源実朝



あづまぢのむろの八しまの秋の色それともわかぬ夕けぶりかな 宗長法師



糸遊に結びつきたる 松尾芭蕉


境内に句碑



どの歌も、煙、煙のオンパレードである。











松尾芭蕉、奥の細道より
室の八島に詣す。同行曾良が曰、「此神は木の花さくや姫の神と申て富士一躰也。無戸室(うつむろ)に入て焼給ふちかひのみ中に、火々出見(ほほでみ)のみこと生れ給ひしより室の八島と申。又煙を読習(よみならわ)(はべる)もこの(いわれ)也」。(はた)、このしろといふ魚を禁ず。縁起の旨世に伝ふ事も侍し。 

歌枕巡りを目的とした「奥の細道」の旅をスタートし、最初の歌枕の地なのに、あまり感動していないのがよく分る。

「室の八島に詣す」だけで終わり、あとは同行の曾良の蘊蓄を披露しているだけ。最後は唐突にコノシロという魚の話。

たぶん期待ハズレだったのだろう。












個人的には、期待は裏切られず満足しています。





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