すさまじきもの 〜歌枕探訪〜


虫明の迫門(せと)(岡山県瀬戸内市)









岡山県瀬戸内市邑久町の東南の沖合には、島々に囲まれて穏やかな海域が広がっている。ここは古来から船泊りの地である。

昔の舟の航海方法は、陸地を見ながら陸標から陸標へと進む沿岸航行であり、目視航行であった。

このため、航行は日中に限られ、日が沈むと船泊に碇泊する必要があった。

虫明の瀬戸は、大小の島に囲まれ、流入する河川が無く、そして東側に山が連なることから西風を防いでくれるという理想的な船泊りの地であった。

現在は養殖のカキ棚が所狭しと浮かんでいる。海の穏やかさは昔と変わりないようだ。






「虫明の瀬戸」を詠んだ歌


虫明の迫門見る折ぞ 都のことも忘られにけり 平忠盛


なみたかき虫明の迫門にゆく舟の よるべしらせよ沖つしほ風 藤原良経(新勅撰和歌集)


ふねとむる虫明の磯の松の風 たが路にか又かよふらん 慈円


風あらき虫明迫門夕闇に 友よびかはす夜半の舟人 新千載和歌集


月かげ虫明の迫門を漕出れば 八十島かけて送る鹿の() 後鳥羽天皇


都にていかにかたらん虫明の 迫門の入江の松のたえ間を 藤原定家


まてとしもたのめぬ磯のかぢ 虫明の波のねぬよとふなり 九条良経


虫明の瀬戸の潮干のあけ方に 浪の月影遠ざかるなり 秋篠月清集


しるべせよ虫明の瀬戸の松の風 ほかゆく浪のしらぬ別れに 拾遺愚草


影うつす袖はうきのわれからに月ぞ藻にすむ虫明の瀬戸 明日香井集
「虫」に掛けている

流れても逢ふ瀬ありやと身を投げて 虫明の瀬戸に待ちこころみむ 狭衣物語
『狭衣物語』では飛鳥井女君がこの地で入水を試みた


秋風の身にしむ夜半は鳴く音をも聞くばかりなる虫明の瀬戸 細川幽斎(九州道の記)




船泊りの地として「波」、夜間に停泊するので「月」「寝」「夜」、そして「曙」などが詠み込まれている。









現在では「(あけぼの)」がメインテーマとなっているようだ。
なんと「日本の朝日百選」にも選ばれているらしい。


現地にあった案内板。
沖の長島から朝日が昇る秋口が見頃とのこと。



私が訪問したのは6月下旬。夏至の時期だったので、現地案内板の写真よりずっと左手から太陽が昇ってきた。



前日の夜9時に自宅を出発し、車中泊して現地に到着したのが朝5時半。
雲も多かったし、期待したような写真は撮れなかった。




ここが撮影スポット。
グーグルマップで「迫門の曙」として登録されている。

















満足感の高い訪問でした






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