すさまじきもの 〜歌枕探訪〜


野火止塚(のびどめづか)(埼玉県新座市)







武蔵野はけふはな焼きそ若草のつまもこもれり我もこもれり 伊勢物語



伊勢物語、第十二段

むかし男、人の娘を盗んで武蔵野へ連れて行って、国守に捕まえられたが、女を草むらの中に置いて逃げた。

道行く人が、盗人がまだ草むらに隠れているとして、火をつけようとした。

困った女が詠んだのが上掲の歌。

「武蔵野では今日は野焼きしないでください、いとしい夫も、自分も隠れていますから」

その歌を聞いて、男と一緒に女も捕まえてつれていった。




え〜と、分かるような分からないような、そんな内容であるが、この段は武蔵野国でのエピソードであるものの場所の特定はなされていない。















一方、往古、武蔵野では渡来人が焼き畑農業を伝え、中世には広く行われていたらしい。

焼き畑では、火が人家に及ばないように塚や堤が築かれ、それらは野火止と呼ばれた。

新座郡に野火止の塚あり。高さ一丈ばかり(約3メートル)に土を築き、上には雑樹が繁茂していた。

地元の人々は、上記の伊勢物語のエピソードに付会して「九十九(つくも)塚」と名付けたもの。(「九十九」は伊勢物語のエピソードのひとつ)

また九十九塚の近くに「業平塚」があり、これも野火止の塚であった。




この九十九塚と業平塚は、現在の平林寺の境内の雑木林の中に保存されているとのこと。















伊勢物語で、隠れていた草むらに火を付けられそうになったエピソードがあったのが、地元の好事家たちにより、なぜかしら野火止の塚が伊勢物語の所縁の地にされてしまったというもの。


若草の妻もこもらぬ冬ざれにやがても枯るる野火止の塚 道興准后(廻国雑記)


室町時代に諸国遊覧でこの地を訪れた道興准后の歌であるが、すでに野火止の塚は伊勢物語に関連する故地として詠まれている。



また九十九塚の近くにある業平塚には石碑があり歌が刻まれていた。

むさし野にかたり伝へし在原のその名を忍ぶ露の古塚 江戸名所図会

その石碑は現在なくなったとのこと










■現地訪問



平林寺 ・・・ 埼玉県新座市野火止3丁目1−1


当日は関東に台風が接近している日であった




総門、
台風のため交通とかが止まっていて、どうなのかなと思って行ってみたが、



閉まっていた



台風接近のため、臨時休業だった。残念
境内に九十九塚と業平塚がある



こちらは半僧門



平林寺の前の茶店も閉まっていた



茶店の奥の森。武蔵野の面影が残っていた












平林寺には武蔵野の雑木林が残っていると聞いていたので、平林寺に隣接している新座市役所から撮影をした



新座市役所から平林寺を眺望、たしかに雑木林があった



住宅の向こうが平林寺の雑木林



新座市役所




江戸名所図会「平林寺」 (早稲田大学図書館)


先程からずっと目をこらして見ているが、この挿図には九十九塚や業平塚が描かれていないようだ












いつか再訪したいが、そんな機会はあるのかな





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