すさまじきもの 〜歌枕探訪〜


野田(大阪市福島区)




大阪市福島区の野田周辺は昔から藤の花の名所だったらしい。
なんと、「吉野の桜に、野田の藤」とまで謳われていたとのこと。
戦後、都市の開発のためにいったん途絶えたようだが、最近になって福島区内のいろんなところで野田藤の復活が試みられている。




今回訪問したのは5月の初旬のこと。
ちょっと遅かったような。

下福島公園の藤棚



こんなかんじなので、藤を撮影していたのは、私のほかに老人約一名だけだった。



う〜ん



木に巻き付きタイプの藤。






こんな野田の藤であるが、古来、多くの歌が詠まれている。
一挙掲載。


難波潟 野田の細江を見わたせば 藤浪かかる花のうきはし 西園寺公経
紫の雲をやといはむ藤の花 野にも山にもはいぞかかれる 足利義詮
いにしえの ゆかりを今も 紫の ふし浪かかる 野田玉川 足利義詮
いかばかり深き江なれば難波潟 松のみ藤の浪をかくらむ 宗良親王(宗良親王千首詠歌)
なつかしきいもか衣の色に咲く 花むらさきの池の藤波 一院別当公実
咲ましる花かと見ん松か枝に 十かへりかかる池の藤波 西園寺公脩
ながめやる難波入江の夕なみに よせてかえらぬ春の藤波 冷泉為影臣
難波江の流れは音に聞へ来て 野田の松枝にかかる藤浪 三好下野守(藤伝記)
難波なる野田玉江の名にしおふ 匂ひ吹こす木々の藤なみ 三好新左衛門尉(藤伝記)
住かひや藤さく野田の神垣に ちかひて是そ代々に伝ふる 三好山城守入道笑岩(藤伝記)
ここも又おなし心に春日さす 光にもれぬの神垣 三好日向守(藤伝記)
名にしおふ野田藤波さきぬれば みどり色そふ玉川の水 寂如
野田村に蜆ありけりの頃 鬼貫
むらさきのゆかりもあれば旅人の 心にかかる野田藤波 蜀山人



「吉野の桜」とまではいかないが、それなりの景勝地だったのだろう。















これらの歌のなかで、ふと気になるのは「玉川」の地名。

「野田」といえば「玉川」に続くのが歌枕の世界の常であるが、その「野田の玉川」とは奥州の多賀城付近にある歌枕のこと。

それがなぜか難波江の、野田のすぐ隣に玉川という地名があって、しかも和歌にまで二つの地名は詠み込まれている。

そもそも玉川とは、玉のように美しい水の流れのことで、淀川の河口地帯にそんな小川があったはずがないのだが、いったいどうなのか?



とりあえず現在の玉川に行ってみた。


地下鉄玉川駅。
一般的な都市の町並みであった。



地下鉄玉川駅から至近距離にJR野田駅がある。



玉川周辺の現在。
地図で見る限り、玉川という川は見つからない。



















【追記】



2021年春、阪神野田駅前の藤棚








JR海老江駅のプラットホームのデザイン










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