すさまじきもの 〜歌枕★探訪〜 |
山路を登りながら、こう考えた。 智に働けば角が立つ。 情に棹させば流される。 意地を通せば窮屈だ。 兎角に人の世は住みにくい。 |
夏目漱石(草枕) |
明治30年の年末、熊本に赴任していた夏目漱石は同僚と小天温泉を訪れ、前田家の離れに宿泊して正月を過ごした。 そのときの経験をもとに小説として書き上げたのが、名作「草枕」。 窮屈で住みにくい世の中だから、人の心を豊かにする芸術は素晴らしい!という芸術論や、煩わしい義理人情の人間関係から離れた「非人情」という境地への憧憬などが主題。 学生時代に「草枕」を読んだ時の感動を今でも覚えている。内容をあまり理解できなかったにもかかわらず、それまでに読んだ本の中でナンバーワンで、このあともこれ以上の本とは出会うことはないだろう、とか一人で感動に咽んでいたものだ。 今回、熊本小天温泉へ訪問するに際し、30年以上振りに「草枕」を読み直してみた。 読後の感想として、とても退屈な内容で、冗長な芸術論には本当に飽き飽きとした。 青年時代の感受性はとても大切なものである。 ■草枕温泉「てんすい」 ・・・ 玉名市天水町小天511−1 ![]() 小天温泉にある日帰り温泉 ![]() 送迎バスの装飾 実際に夏目漱石が泊まったのは、この「てんすい」から山を下りたところにある「小天温泉 那古井館」で、現在も旅館として営業している。 夏目漱石が年越しで小天温泉に滞在した時に読んだ句 |
かんてらや 師走の宿に 寝つかれず | 夏目漱石 |
温泉や 水滑かに 去年の垢 | 夏目漱石 |
降りやんで 蜜柑まだらに 雪の舟 | 夏目漱石 |
「草枕」にもみかんは登場している。 「何年前か一度この地に来た。指を折るのも面倒だ。何でも寒い師走の頃であった。その時蜜柑山に蜜柑がべた生りに生る景色を始めて見た。」 ![]() みかんの山。南越展望所より |