すさまじきもの 〜歌枕探訪〜


大荒木の森(京都市伏見区)





源氏物語の登場人物の中で、とんでもないキャラクターは次の三人だろう。


 ● 色好みの源内侍(げんのないしのすけ)
 ● 赤鼻の末摘花(すえつむのはな)
 ● 早口の近江の君


今回は、その中で源内侍の話








源氏物語の『紅葉賀』、光源氏の二十歳ぐらいの頃。

宮中の上級女官である源内侍は、家柄も良く、教養深く、琵琶を得意とし、帝の信頼も厚いのだが、年齢は57〜8歳とまさに老女であった。

ところが歳に似合わず多情で色好みな性格で、髪型も衣装も派手で若作りしていた。ただし目の下の皮が黒く落ち込んで、年相応に老けていたようだ。

若い光源氏は「歳を取って、どうしてこんなにふしだらなのか」と興味を持ち、戯れかけてみると、源内侍も応じてきて、派手な夏扇で顔を隠しながらも流し目を送ってきた。

光源氏がその派手な夏扇を取り上げてみると、「森の下草老いぬれば」と書いてあった。


え〜と、これは古今集の詠み人知らずの歌より

大荒木森の下草老いぬれば駒もすさめず刈る人もなし 古今和歌集

大荒木の森の下草が成長して古くなってしまったので、馬も食べなくなり、人も草を刈らなくなった、という意味で、歳を取ったら誰も相手にしてくれないと嘆いている。

光源氏は、わざわざゲスな歌など扇に書かなくてもいいのにと苦笑し、「森こそ夏の、と見ゆめる」と応えた。


え〜と、これも大荒木の森の歌より

ほととぎす来鳴くを聞けば大荒木森こそ夏の宿りなるらめ 信明集

夏の大荒木の森はホトトギスの宿、転じて、源内侍のところには多くの男が出入りしている、と返した。

二十歳の貴公子と、還暦前の老女の恋の歌の応酬である。




この後もすごい展開になる。
光源氏のライバルの頭中将も負けてはならじと源内侍に言い寄り、三角関係になり、ついには寝室で源内侍をめぐって二人が争うことになる。


いやはや、想像するにも気持ちが悪くなるような場面である。



(気持ち悪い場面)
さてもありけれ、五十七、八の人の、うちとけて もの言ひ騒げるけはひ、えならぬ二十の若人たちの御なかにてもの怖ぢしたる、いとつきなし
 20代の若者二人の間に、57〜8歳の女が衣服もきちんと着ないで怖がっている様子は、実に醜態である。

















■現地訪問



大荒木の森については様々な説があるが、京都市伏見区淀の與杼(よど)神社の神苑も有力な候補地。


與杼神社



與杼神社の社叢林
下草?は刈られているようだ。



これも



下草どころか、大きな木まで切られていた。



與杼神社は淀城の中にある。これは淀城の外堀。





ちょうどツツジがきれいであった。














伊勢物語では在原業平は99歳の老女と共寝をし、
その息子さんから感謝されてました。






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