すさまじきもの 〜歌枕探訪〜


沖野3丁目(滋賀県東近江市)










「源氏物語の近江を歩く」(サンライズ出版)を読んだ。

源氏物語の中に近江を舞台にした巻があったかな?と少し違和感があった。確かに「関屋」では石山寺参詣途中の光源氏と、夫の伊予介の任地から戻ってきた空蝉が逢坂の関で偶然すれ違い、文を交わす場面がある。あとは横川の僧都ぐらいか。
その程度で一冊の本ができるのかなと思ったが、本を読んでみると紫式部が源氏物語の構想を練った石山寺や、紫式部が父親の任地の福井への往来で近江を通過したことなどが中心で、本の題名は「紫式部の近江」の方がよいのではと思った。(どうでもいいのだが)

そんな中で短く紹介されていたのが、「近江の君」のこと。光源氏が玉鬘を探し出してきたことに対抗し、頭中将が見つけてきた落し胤で、近江国に住んでいたので「近江の君」と呼ばれる。

貴族的な素養がなく、非常に早口で、落ち着きがなく、どこでも寝るし、双六では妙な呪文を唱えるし、挙句は便所掃除までしてしまうトンデモキャラ。

この「近江の君」の出身地として滋賀県東近江市の沖野三丁目が紹介されている。




(「源氏物語の近江を歩く」81頁の写真


「近江の君」は自分が早口なのは、出産のときに産屋に詰めていた妙法寺の別当が早口だったので、それにあやかって自分も早口になったと説明している。この妙法寺は現在の沖野の近くにあったとされ、現在も妙法寺町として地名になっている。


源氏物語は架空の物語なので、「近江の君」も実際にいたわけではないが、この本の中で出身地を特定しているので、とりあえず行ってみることにした。


沖野へ続く道。



沖野の町の周りは今でも田畑が広がっている。



そしてこれが沖野3丁目



これも沖野3丁目



方角的に、本の写真と同じ向きに撮った写真。



滋賀県名物の「飛出し坊や」も健在




いやはや、近江の君の出身地は、現在では一般的な住宅地になったようだ。
まあ、架空の人物、しかも端役の人物の出身地なので、それほど突き詰めることもないのだが。











さて、破天荒な近江の君はやはり破天荒な歌を詠んでいる。


源氏物語、常夏の巻。弘徽殿の女御に出仕した近江の君はさっそく弘徽殿女御に対し歌を送る。

草若み常陸の浦いかが崎いかであひ見む田子の浦 近江の君(源氏物語)

これに対し、

常陸る駿河の海須磨の浦に波立ち出でよ筥崎の松 弘徽殿女御の女房(源氏物語)


近江の君が「自分は未熟者ですが、あいさつに伺いたい」と歌を届けたところ、弘徽殿の女御は自分に仕えている女房に命じて訳の分からない歌を返している。
近江の君は「松は待つ」ことだと喜んでいた。




また近江の君は真木柱の巻で夕霧に恋の歌を送っている。

おきつ舟 よるべ波路に ただよはば 棹さし寄らむ 泊り教へよ 近江の君(源氏物語)

返し

よるべなみ 風の騒がす 舟人も 思はぬかたに 磯づたひせず 夕霧(源氏物語)

詩歌管弦の遊びに興じている殿上人の中に夕霧を見つけた近江の君は、泊まりに来てほしいと夕霧に歌を送るが、夕霧にすげなく断られている。









源氏物語のお笑いキャラは、源典侍と末摘花とこの近江の君だろうけど、その中でも近江の君が一番ぶっ飛んでいる。
千年も前にこんなキャラを設定した紫式部はすごいと思う。












いろいろ迷いましたが、訪問してよかったと思います。






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