すさまじきもの 〜歌枕探訪〜


大島の鳴門(山口県柳井市)











周防国を代表する歌枕である「大島の鳴門」に架橋された大島大橋に、外国船船籍の貨物船が衝突し、水道管や光ファイバーケーブルが切断されるという衝撃的な事故が2018年に起きた。

貨物船は航行計画の段階で橋の高さを調べておらず、事故の30分前になって気づき、橋の高さを調べたが、冊子が分厚く手間取ったとのこと。その間、減速や進路変更をしなかったため大島大橋に衝突したという。

事故後、貨物船は逃走と、後味の悪いものとなった。

歌枕の地に掛かる橋の損傷ということで、印象に残ったニュースであった。











上述の通り、「大島の鳴門」は周防国を代表する歌枕である。
と言うのは、歌枕歌ことば辞典(笠間書院)では周防国の歌枕として「大島の鳴門」だけを選んでいる。また歌枕辞典(東京堂出版)は「大島の鳴門」と「岩国山」を選んでいる。畿内では掃いて捨てる程の歌枕がある中で、一国に一つか二つしかきちんとした歌枕がないというのは物寂しい限りである。
ちなみに両辞典に長門国の歌枕は選出されていない。(涙)




そんな本格的な歌枕を詠んだ歌の紹介



これやこの名に負ふ鳴門の渦潮に玉藻刈るとふ海人娘子(あまおとめ)ども 万葉集

渦潮もいいが、海藻を採ってる乙女たちも素晴らしい!





筑紫道の可太の大島しましくも見ねば恋しき妹を置きて来ぬ 万葉集

可太の大島は現在の屋代島のこと





舟人もたれを恋ふとか大島のうらがなしげに声の聞こゆる 源氏物語

玉蔓を連れて九州へ逃れるとき船の中で詠んだ





人しれず思ふ心はおほ島のなるとはなしに嘆く頃かな 後撰和歌集

「なるとはなしに」を導く枕詞として





さながらもつらき心はおほ島のなるとをたてし程のわびしさ 一条摂政集

宮中にある有名な「鳴る戸」と掛ける





大島に水を運びし早舟の早くも人にあひ見てしかな 大江朝綱(後撰和歌集)





おほしまのなみだのかけぢに汐満ちてけふは鳴門に泊りぬるかな 藤原在氏(夫木和歌抄)

潮の干満により船の航行が難しくなる




都にと 急ぐ甲斐なく大島の灘の歩行路(かけぢ)は 潮満ちにけり 恵慶法師

「かけぢ」は崖の山道のこと、ここでは海上難路の意





思ふことなほしき波に大島のなるとはなくて年の経ぬらむ 続古今和歌集

「鳴門」と「成る」を掛ける






いやはや本格的な歌枕らしい歌のラインナップである。









■ 現地訪問


大畠漁港の展望台から大島大橋を眺望



大畠海峡と大島大橋



トイレの上に展望台がある













長大トラス橋が大好きです






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