すさまじきもの ~歌枕★探訪~ |
「歌枕 歌ことば 辞典」(片桐洋一著)によると、 【 麻 生 浦 】 伊勢国の歌枕。今の三重県多気郡大淀の浦と同所といわれるが未詳。 とあって、伊勢の国の歌枕かのように解説されている。 大淀の浦とは、伊勢湾に面した砂浜海岸である。 ただし一方では、鳥羽市浦村の入江あたりが昔の「麻生の浦」であったとの意見があり、その根拠として、同地には昔の斎宮の荘園があり、海産物を斎宮に届けていたので、美しい風景は宮廷人たちにも知られていたというもの。 ちなみに鳥羽市は伊勢国でなく、志摩国にあたる。 まあ、他府県からみるとどちらも同じような地域に思える。 そんな鳥羽市の浦村地区へ行ってきた。 現在でも浦村の海の美しさは見事で、「麻生の浦大橋」やカキの養殖筏の光景は際立つものがあった。 ![]() 「麻生の浦大橋」、きれいなニールセンローゼタイプのアーチ橋であるが、カメラの腕が悪いので、平凡な写真になってしまった。 ![]() これも カキの養殖筏が湾内に浮かぶ光景も本当にきれいであったが、写真が撮れていない。(残念) この美しい風景を万葉集では次のように詠われている。 |
おろかにぞ我は思ひし乎敷(おう)の浦の荒磯のめぐり見れどもあかずけり | 万葉集 | |
おろそかに私は思っていました。 乎敷(おう)の浦の荒磯のめぐりは 見ても飽くことのないほどすばらしかったよ。(歌枕 歌ことば 辞典) |
なんと、浦村周辺では和歌の散策路が整備され、歌碑が設置されている。そんなもの、だれか興味あるのかな? |
ちる浪は春の色にぞ桜あさのおふの浦風もいまもふくらん | 建保名所百首 |
御食つ国 志摩の海人ならし 真熊野の 小舟に乗りて 沖へ漕ぐをみゆ | 大伴家持(万葉集) |
麻生の浦に片枝さしおほひなる梨の成るもならずも寝て語らはむ | 古今集 | |
麻生の浦に、片方の枝が茂って全体をおおうようになる梨のように、 成る話でも、成らぬ話でも、いずれにせよ共寝してゆっくり話し合おうよ。 (歌枕 歌ことば 辞典) |
この梨の歌は平安時代の当時、とても有名になったらしいが、その「麻生の片梨」が生えていた跡地が残っている。![]() 上記の歌碑(鳥羽市浦村町170)のとなり。 その他、麻生の浦の歌の紹介 |
片枝さすをふの浦梨初秋に なりもならずも風ぞ身にしむ | 宮内卿(新古今集) | |
櫻麻のをふの浦浪たちかへり みれどもあかず山梨の花 | 俊賴朝臣(新古今集) | |
麻生の海に舟乘りすらむわぎもこが 赤裳の裾に鹽みつらむか | 人麿(拾遺集) |