すさまじきもの ~歌枕★探訪~ |
いやはや「 たしかに、「いかにも歌枕」としてさまざまな要素を兼ね備えている。 点描してみると、 ・まず、万葉集に詠まれていること。東歌に「佐野」は三首も収録されている ・そしてこの地には男女の悲恋の物語が語り継がれており、それをもとにした万葉歌も詠まれている ・「橋」の縁語の『渡る』『掛かる』などを用いて詠み継がれていった ・藤原定家も佐野の歌を詠んだ、その縁で当地に「定家神社」が祀られた(※ 但し定家の詠んだ佐野は紀伊国の佐野だというのが定説) ・男女の悲恋をもとに、世阿弥が能の演目「佐野舟橋」を創作している ・またここは「いざ鎌倉」で有名な能の演目「鉢木」の謡跡でもある。シテの常世の住居跡に常世神社が鎮座 ・旧中山道の道筋に近く、多くの旅人が立寄った ・2014年になって、ゆかりの地に上信電鉄の新駅「佐野のわたし」駅が誕生 等々である。 惜しむらくは、近代になって忘れ去られたような存在になってしまっていること。 一方の伊香保沼が明治時代以降も著名な文人が訪問し、多くの作品を残しているのとは対照的だ。 このページ、書くことが多いが、とりあえず北斎の浮世絵からスタートしたい。 |
この浮世絵は葛飾北斎の「佐野舟橋」。 現在の群馬県高崎市を流れる烏川に架かっていた舟橋が描かれている。 舟橋は、舟を並べてその上に板を敷いた橋のこと。 佐野舟橋は大昔からこの地にあったらしく、万葉集にも詠まれている。 |
万葉集 |
佐野舟橋が板を舟から外すように、親は私たちの仲を裂こうとするが、どうして私たちは離れることができようか、という意味。 これはこの地に伝わる男女の悲恋を取り扱ったもの。 昔々、烏川の両岸に若い男女が住んでいて、毎晩舟橋を渡って逢い引きしていた。 親は二人の邪魔をしようとして、舟橋の板を外したところ、夜中に二人は川に落ちて死んでしまった。 この物語をもとに、能「佐野舟橋」が作られた。 ■現地訪問 ![]() これが現在の佐野舟橋 洪水になると、橋桁部分が流失することを予め考慮した「流れ橋」 過去に何度も流されているようだ ![]() 佐野舟橋の史跡が整備されている ![]() 謡曲史跡保存会の駒札があった ![]() 少し歩くと上信電鉄の「佐野のわたし」駅 この駅ができたのは2014年のこと ![]() 駅の入場門のデザイン これは後述する謡曲「鉢木」の主人公の佐野源左衛門常世をモチーフとしたもの ![]() 上信電鉄の烏川を渡る橋を撮影 佐野舟橋を詠んだ歌 |
万葉集 |
万葉集 |
佐野山に打つや斧音の遠かども寝もとか児ろが面に見えつる | 万葉集 |
いつみてかつげずは知らん東路と聞きこそわたれ佐野の舟橋 | 和泉式部 |
恋わたる佐野の船橋影絶えて人やりならぬ音のみぞなく | 藤原定家 |
ことづてよ佐野の舟橋はるかなるよその思ひに焦がれ渡ると | 藤原定家 |
五月雨に佐野の舟橋浮きぬれば乗りてぞ人はさし渡るらん | 西行(山家集) |
東路の佐野の舟橋かけてのみ思ひわたるを知る人のなさ | 後撰和歌集 |
東路の佐野の舟橋さのみやはつらき心をかけて頼まむ | 壬二集 |
今宵をば秋の最中と数えつつ佐野の渡りの月を見るかな | 前大僧正慈円 |
かよひけん恋路を今の世がたりに聞きこそ渡れ佐野の船橋 | 道興准后(回国雑記) |
最初、佐野を詠んだ万葉歌は四首あったが、その中から「上野佐野の船橋取り放し親は放くれど我は離るがへ」(いちばん上掲)が佐野の確固たる歌枕としての地位を築き、後世に影響を与えた。 悲恋の恋物語から恋をテーマにした歌、「橋」から、『渡る』、『掛かる』の縁語を用いたものが、よく詠まれた。 佐野舟橋の近くに能「鉢木」の謡跡がある。 シテの常世の住居跡が常世神社として祀られている。 「鉢木」は、え~と、まぁなんと言うか、よく知らないので現地にあった駒札を転記する。
■常世神社 (高崎市上佐野町495−2) ![]() 小さな参道が続く ![]() 鳥居の裏に「伝曰 源左衛門屋敷趾」の文字が ![]() 石段を上ったところに小さな祠がある ![]() 扁額が奉納されていた ![]() 「佐野源左衛門常世遺蹟」の碑 ![]() 石段の傍らに歌碑があった
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「常世神社」から少し南へ下ったところに「定家神社」がある。 祭神は百人一首の選者、歌聖の藤原定家。 Wikipediaによると、 「伝承によると、定家は源雅行との間で起こした揉め事が原因で上野国へ流罪となり、それが許されて京へと戻る際、自刻像と持念仏(観音菩薩像、3寸)を村人たちに贈った。これを神体として作った祠が定家神社の始まりであるという」 ![]() 新幹線の高架の下の路に面している ![]() 広い敷地に社殿があるだけ。あとは広場になっていた ![]() 社殿 藤原定家が「佐野の渡り」を詠んだ新古今和歌集の歌、
紀伊国の佐野は
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