すさまじきもの 〜歌枕探訪〜


信夫(福島県福島市)





陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れそめにし 我ならなくに 源融(百人一首)
陸奥で織られる「しのぶもじずり」の摺り衣の模様のように、乱れる私の心。
いったい誰のせいでしょう。私のせいではないの に(あなたのせいですよ)
/小倉山荘のホームページより


文知摺観音の境内に歌碑

百人一首のこの歌、どうもイメージが湧かなくて、どちらかというと敬遠するような歌になっていた。
文知摺とか、実際何のことか分からない。

そんなわけで、訪問前にはあまり期待をしていなかった。よって事前にほとんど勉強もしなかった。

けれども毎回同じ経験をするのだけれど、現地を訪問し、ゆかりのモノを見学し、話を聞くにつれて、だんだん興味が湧いてきて、帰宅後に関連書籍を読んだりするうちに、「ああ、もっと事前に調べた上で訪問していたら、何十倍も楽しかったに違いない!」と後悔する。

今回もそのパターンである。




「信夫の史蹟めぐり」(高橋貞夫)は福島市を中心とした史蹟のガイドブック。現地から帰ってきてから読んだ。
ただ、この本を読んだ上で福島市を訪ねていたら、訪問予定地が多くなりすぎて、それはそれで旅行のスケジュールを組めなくなっていただろう。











とりあえず、こんな具合で陸奥の歌枕、「信夫の里」を訪問して来た。



【渡利春日神社】(福島県福島市渡利字岩崎町159)

福島市の市街地から阿武隈川を東に渡り、山の手前にまで行ったところに渡利春日神社がある。
ここに「信夫の渡し」関係の歌碑があるとのこと。


山の傾斜をうまく利用した参道であった。



上っていくと、立派な社殿があった。


この左手の奥に歌碑発見。

あさち原あれたる宿は昔みし 人をしのふのわたりなりけり 能因法師

逢隈に霧たてとひしから衣袖に夜も明けにけり 源重之

風そよくいなば霧はれて逢隈川にすめる月かけ 葉室 光俊


三つの歌が併刻されている。
渡利春日神社の境内

山の近くで「渡し」に因んだような「渡利春日神社」があったり、「渡し」を詠んだ歌の歌碑があったりするのだが、これは想像するに、もともと渡し場の近くにあった神社が洪水で流されて、今度は流されないように、山の近くに遷したのだろう。







【信夫の渡し】???


阿武隈川の写真。
特に根拠はないのだが、この写真の阿武隈川の向こう岸左手に「信夫山」、右手の橋は「もぢずり橋」。とくれば、ここら辺りが「信夫の渡し」かなと思っただけ。
実際のところ、洪水で川の流れも大きく変化してるようなので、よく分からないのだろう。
地名からいくと、前述の「渡利」地区の近くかも知れない。







【文知摺観音】(福島県福島市山口字寺前5)


真冬に行ったので、他にだれも観光客がおらず、案内のおばちゃんが付きっきりでとても親切に説明してくれた。



門を入ったところでいきなり芭蕉の彫像が登場!

早苗とる手もとや昔しのぶ摺 芭蕉


境内に句碑





つぎは文知摺石。



う〜ん、なんというか・・・



今となっては普通の大きな石であるが、現地で見た時は感激した。

奥の細道にも「明くれば、しのぶもぢ摺りの石を尋ねて、信夫の里に行く」とある。この石は半ば土に埋もれてあったらしい。





なんか由緒あり気な建物があったので、パチリ!
「観音堂」らしい。




美術資料館の傳光閣。
おばちゃんがカギを開けてくれた。
それなりにいいものがあった。




境内にあった歌碑、句碑



若緑志のぶの丘に上り見れば人肌石は雨にぬれいつ 小川芋銭







涼しさの 昔をかたれ しのぶずり 正岡子規







みたるなと 人を諌むも おりからに 我が心より しのぶ文じ摺 沢庵和尚








いやはや文知摺観音は素晴らしかった!











【源融と虎女】

ところで、百人一首の源融の歌は、この地で源融自身が経験した悲恋物語の中で詠まれたもの。
簡単に言うと、都からの按察使の源融が当地の長者の娘、虎女を現地妻とし楽しく過ごしたが、任期が終わったので都に帰ったところ、虎女は未練ある様子だったので、源融が今でもそれなりに気があるような歌を虎女に送ったもの。これが冒頭の歌で、百人一首に選ばれた。



「虎が清水」
虎女が身を清めた清水が復元されていた。




「虎女と左大臣(源融)の墓」
源融はここで死んだことになっていた。











【信夫山】


阿武隈川と信夫山。
本当にいい写真が撮れたもんだ。
ただし、これは阿武隈川を撮っていたらたまたま信夫山が写り込んでいたもの。実は、家に帰ってくるまで信夫山のことを忘れていた。


信夫山といえばこの歌

しのぶ山しのびて通ふ道もがな 人の心の奥も見るべく 伊勢物語












由緒満載の歌枕の地でした。





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