すさまじきもの ~歌枕探訪~


篠原古戦場(石川県加賀市)




1183年、倶利伽羅峠の戦いで敗れた平家は都へ向かって敗走し、それを追って源氏の木曽義仲が攻め込んできた。平家側はこの篠原の地でなんとか源氏の追撃を食い止めようと再陣して戦ったが、緒戦から総崩れとなった。

そんな中、平家方でただ一騎、返しては戦い、返しては戦って、しんがりで敵を防いだのが老将斎藤実盛。
最後は源氏方の手塚太郎に討取られるのだが、実は斎藤実盛は木曽義仲の命の恩人だったということが判明するなど、意外な展開になっていく。


今回は、そんな斎藤実盛のゆかりの地、北陸篠原を訪ねてみた。







食堂「源平」 (石川県加賀市柴山町せ46−1)
いやがうえにも源平ムードが高まっていく



食堂のとなりが「篠原古戦場跡」
現在は公園になっている。



公園の名称は「手塚山公園」。実盛を討取った源氏の武将の手塚太郎と関係あるのだろう。この辺りには「手塚町」や「源平町」などの地名が残る。


手塚山公園の中に東屋があって、内側の壁に「篠原の戦い絵詞」なる見事な作品が展示されていたので、ここで紹介したい。





12世紀の初頭まで、諸国の大半は平氏一門の支配下にありました、治承四年(1180)に、源頼朝や木曽義仲らが挙兵すると、能登や加賀でも平氏の支配下に不満を持つ者たちがあいついで兵をあげました。 
 寿永二年(1183)加賀、越中の国堺の倶梨伽羅峠では、平氏の大群が、義仲の奇襲を受け大敗しました、勢いづいた源氏の軍勢は、北国街道を手取川から能美、江沼へと追いかけました。

迎え撃つ平氏の軍勢は加賀篠原にかかる海浜の松林に陣を立て直し、義仲軍と決戦を図りました、しかし、義仲軍の勢いは予想以上に強く、しっかりとした布陣もできず四散しました。

このとき、平氏の武将斎藤実盛は「この戦い、もはやこれまで」と、赤地錦の直垂(したたれ)、黒糸威しの鎧で着飾り、さらに老武者とあなどられては平氏の恥と白髪を黒く染めて出陣しました。

敗走する兵士の軍勢の中で、ただ一騎踏みとどまった実盛は、義仲軍の武将、手塚太郎光盛の呼びかけに応じ、斬り合うこと数回、ついに手塚太郎の刀により討ち取られました。

手塚太郎光盛とその仲間、樋口次郎兼光は、高貴な衣装を身に付けた黒髪の武将を不審に思い、近くの池でその首を洗ってみました、すると黒髪はたちまち白髪となりました、それはまぎれもなく平氏の武将斎藤実盛の姿でした。

驚いた光盛と兼光は、その首をすぐに木曽義仲に差し出しました、義仲は、幼い頃、斎藤実盛に命を助けられたことを思い出し、さめざめと涙を流しました。
 義仲は、実盛の亡きがらを近くの松林に手厚く葬りました、かっての恩にすがることなく、その名を秘して武士らしく立派な最後を遂げた実盛は、現在もない多くの人々から畏敬の念で慕われています。



いやはや感動の名場面であるが、この公園にこの場面を再現した彫像があった。





実盛の兜を囲む三人の像



この人物は木曽義仲か。
実盛の首を抱いている、恐ろしい。



これは樋口兼光かな



体に矢が突き刺さっているのは手塚だろう



そして傍らには実盛の首を洗ったという「首洗池」



すこし丘を登ると、実盛を祀った実盛神社(兜の宮)があった。
真夏に訪問したので、虫だらけで大変だった。



祠の中には兜が祀られているらしい。









この手塚山公園から西へ2キロほどの場所に「実盛塚」がある。


実盛塚の入り口。住宅の間を入っていく。



義仲は、実盛の亡骸を近くの松林に手厚く葬ったとある。この松も立派であった。


実盛と義仲のエピソードは、平家物語の中でも「実盛最期」として一章を成している。「昔の朱買臣は、錦の袂を会稽山に翻し、今の斉藤別当実盛は、その名を北国の巷に揚ぐとかや。朽ちもせぬ空しき名のみ留め置いて、骸は越路の末の塵となるこそ哀れなれ」(平家物語「実盛最期」)













篠原の戦いから500年後、松尾芭蕉が奥の細道の旅で加賀国小松にやってきた。
松尾芭蕉は木曽義仲を崇拝していたので、実盛のエピソードにも相当な興味を持ったようだ。
実盛の兜に関し、次のような名句を詠んだ


むざんやなの下のきりぎりす 松尾芭蕉(奥の細道)



手塚山公園に句碑(石川県加賀市柴山町63)


北陸道尼御前PA(下り)に句碑







 篠原古戦場跡には2017年の8月のお盆休みに訪問した。その十日後の8月27日(日曜日)にNHKの「古典芸能への招待」で能「実盛」が放送された。タイムリーであって、楽しめた。
















古戦場跡ですが、義仲、実盛、そして芭蕉と、役者が揃いすぎてます






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