すさまじきもの 〜歌枕探訪〜


蔀山(しとみやま)(広島県庄原市)







蔀山おろしの風の寒ければ 散るもみじ葉をきぬ人ぞなき 歌枕名寄

しとみ山風はおろせど郭公 声は籠らぬ物にぞありける 源俊頼

しとみ山おろしの風の寒ければ 雁のはつ音になきてこそふけ 松葉名所和歌集



広島県庄原市にある歌枕である蔀山(しとみやま)を詠んだ歌を並べてみた。

おろす」と「」がキーワードとなっているようだ。

そこで「(しとみ)」をインターネットで調べてみると、「日本建築で上から吊(つ)り下げた格子戸。蔀戸(しとみど)ともいう。外に突き上げ、あるいは内に引き上げて開け、軒または天井から下げた金具に引っかけて留める。(後略、小学館/日本大百科全書(ニッポニカ)」とあった。

つまり、朝に吊り上げた蔀を、夕方になったり風が吹いてきたら「下ろす」ことになる。

つまり「蔀山」は、吊り上げるか、下ろすか、どちらかになるが、歌の詠み手としては「山から風が下ろす」方が詩情をそそったのだろう。

多分、詠者はだれも現地まで訪問していないだろう。










【現地訪問】



東側から、三角形のきれいな山だった



南から



南西から



蔀山には山城が築かれていたようだ
















さて、後鳥羽上皇は備後国を経由して隠岐に流された説の「後鳥羽伝説」では、上皇は配流の途上、近くの功徳寺に滞在し、そこから蔀山を眺めて歌を詠んでいる。


蔀山降ろす嵐のはげしくて 紅葉の錦きぬ人もなし 後鳥羽上皇


上掲の歌枕名寄の歌とほぼ同じ内容

いやはや残念なのは、現地に行き、現地で蔀山をしっかり見ているはずの後鳥羽上皇の歌がその他一般の歌と同じ内容であること。

歌のルールがあるのは分かるが、現地でしか味わえない「なにか」を詠み込んでほしかった。











■後鳥羽上皇が眺めた風景


功徳寺がある高野町新市から蔀山を眺める。約2キロの距離



功徳山入り口



崖の上に見えるのが功徳寺。なにか後鳥羽上皇の旧跡が残っているのかな (今回は訪問せず)

功徳寺 ・・・ 広島県庄原市高野町新市1118




















すいません、
後鳥羽上皇の歌に求めた現地でしか味わえない「なにか」とは、広告業界でいうところの「シズル感」のようなものです。
シズル感の語は、肉や揚げ物などがジュージュー音を立てる様や肉汁が滴り落ちる様を表す英単語「Sizzle」に由来します。
臨場感や実物感など現地でしか感じることができない、瑞々しい、湯気の立っているようなSomethingです。






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