すさまじきもの 〜歌枕★探訪〜 |
みちのくに、平泉にむかひて、たはしねと申す山の侍るに、
こと木は少なきやうに、桜のかぎり見えて、花の咲きたるを見てよめる
ききもせず 束稲山の さくら花 吉野の外に かかるべしとは | 西行(山花集) |
「束稲山の桜はすごい!吉野山以外にこんなすごい桜があったとは、聞いたことがないよ」というかんじで、西行の驚嘆が伝わってくる。 年ごとに桜の開花を追いかけていた桜マニアの西行をこれだけ唸らせるのだから、さぞかし壮観な眺めであったろう。 束稲山は、平泉からは北上川を挟んで東に位置する山。京都の東山になぞらえたらしいので、さしずめ北上川は鴨川になるのかな。東山を見渡すように束稲山をうち眺めたのだろう。 安倍頼時が桜の木を1万本植えたと伝わっている。西行が訪れた頃には吉野山に匹敵するような桜が咲いていたのだろう。 さて、私は長いこと束稲山を歌枕だと思っていたのだが、一般的な歌枕辞典には載っていない。よくよく考えると西行の歌以外に束稲山を詠んだ歌が見つからない。これだけ有名な歌のわりに追随する本歌取りの歌も見当たらない。一発屋の歌枕なのか。(私が見つけていないだけかも) また平泉関連で桜の花を愛でるような歌もない。西行が束稲山の桜を詠んだあと、義経の敗北と奥州藤原家の滅亡が続き、平泉のイメージが「国破れて山河在り」系に塗り変わったことにもよるのだろう。 【束稲山】 ![]() 高館橋と束稲山 |