すさまじきもの 〜歌枕探訪〜


多胡の浦(富山県氷見市)




いやはや富山県氷見市の辺りって、一級の万葉故地が集積していて、歌枕フリークにとってはパラダイスのような場所。
高岡市から海岸線を進んでいくと、「有磯の浦」「渋谷の崎」があって、「松田江の長浜」に続く。往古は、現在の内陸部まで入り江や潟湖が広がっていて、「多胡の浦」や「布勢の海」「垂姫」などの景趣に優れた絶景ポイントが点在。万葉歌人たちの歌心を鷲掴みしていたようだ。
また奥の細道で芭蕉もこの地を目指したが、漁師の家はどこも泊めてもらえないと脅されて、訪問を断念したエピソードがある。

こんな風流の勝地であるが、今回の北陸旅行は三泊四日の日程で、富山・石川・福井の三県の名所旧跡を隈なく回るスケジュールを立てたため、どこも駆け足での訪問となってしまい、往時の面影を偲んだり、古歌の心を按ずるような余裕はほとんどなかった。

実際、何のための旅行なのか分からないようなハードな旅であった。







さて、歌枕としての「多胡の浦」のキーワードは藤の花。
越中国守であった大伴家持が仲間とともに遊覧に訪れた際に、見事に咲いた藤の花を見て、歌を詠み合っている。


藤波の影なす海の底清み沈く石をも玉とそ吾が見る 大伴家持(万葉集)


多胡の浦の底さへにほふ藤波をかざして行かむ見ぬ人のため 内蔵縄麻呂(万葉集)


いささかに思ひて来しを多胡の浦に咲ける見て一夜経ぬべし 久米広縄(万葉集)




これらの歌の影響で、平安時代より多胡の浦は藤の名所になった。









現在、多胡の浦を含む一帯は埋め立てられて、普通の陸地になっている。
上田子地区・下田子地区一帯が古代の多胡であったとされる。
この地に田子浦藤波神社が鎮座。



社頭。
村の鎮守社程度の雰囲気であった。


訪問したのは8月の盆休み。真夏にこの階段はつらい。
変な虫とか爬虫類も気になった。



階段を上ると拝殿。
この拝殿の後ろに万葉歌碑があったらしい。いろいろ探したが分からなかった。



拝殿から見下ろす。
この下まで入り江があったのだろう。



下まで降りてきた。
こんなところに藤棚。
藤の花咲く季節はすごいのだろう。



階段を下りてきて外を眺める。
ここら辺は潟湖か湿地帯だったのだろう。





なんと氷見の万葉故地の図表があった。
非常に分かりやすい!
最初からこれを見ていたら、どんなに楽だったか分からない。



しかも万葉歌碑の設置場所まで全てまとめられていた。


旅の前にこれだけの情報があったら!と思ったのだが、逆に情報がありすぎたら訪問予定先も増えてしまい、それはそれで大変なことになったろう。
人生、再び越中万葉を訪ねる旅があるかどうか分からないが、その時はゆっくりと時間をとって、いにしへの歌人たちに思いを馳せるような旅にしたいものだ。





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能「藤」の謡蹟地でもあった。
どんなんやったかな?









地図のマークは田子浦藤波神社







越中万葉は奥深いです







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