すさまじきもの 〜歌枕探訪〜


滝口寺(京都市右京区)




いやはや、本当にマイナーな平家物語のゆかりの地である。

たぶん、平家物語の愛好家でも、滝口入道の逸話をすぐに思い浮かぶ人は少ないだろう。

かくいう私も今回平家物語の「横笛の事」を読み返してみたものの、どうもしっくりこない。

滝口入道については平維盛が高野山で出家するところで登場する高野聖として憶えていたのだが。

滝口寺に関するエピソードは、滝口入道の出家の原因となった女性、横笛との悲恋の物語である。


簡記すると次の通り


■滝口入道は出家前は斎藤時頼と名乗り、平重盛に仕えていた。

■ある花見の宴で、建礼門院つきの女官、横笛の舞う姿を見て一目惚れをし、恋文を送るようになった。

■それが時頼の父親にバレて、当家は平家につながる家系なので、横笛とは身分が違いすぎると反対された。

■このまま恋に突っ走ったら父親の命令に背くことになると考えた時頼は、この機会に出家することにした。そして嵯峨野の往生院に入った。

■時頼の出家を伝え聞いた横笛は悲嘆し、嵯峨野の寺々を訪ね回って、ようやく時頼の念誦の声を探し当てた。

■時頼は、訪ねてきた横笛を障子の隙間から見たが、「そんな人はおりません」と人に言わせて、横笛を帰らせた。

横笛が泣く泣く帰るとき、そこにあった石に指を切った血で歌を書き込んだ。

山深み 思い入りぬる 柴の戸の まことの道に 我れを導け 横笛


滝口寺に伝わる石「横笛歌石」

■その後、時頼(滝口入道)は横笛への未練を断ち切るべく高野山に移った。そしたらなんと横笛も法華寺にて尼になったというではないか!

■横笛の出家を知った滝口入道は、高野山から横笛に歌を送った

そるまでは 恨みしかとも 梓弓 まことの道に 入るぞ嬉しき 滝口入道(平家物語)

女返し

そるとても 何か恨みむ 梓弓 引きとどむべき 心ならねば 横笛(平家物語)


「滝口と横笛の歌問答旧跡」碑、側面に上記問答歌二首刻印
滝口寺境内にあり


■しばらくして横笛は死に、それを聞いた滝口入道はますます修行に励み、のちに高野聖とよばれる高僧になる。


ざっと、こんな感じの物語である。
ただ惜しむらくは、この嵯峨野にはすでに「小督」と「祇王」という平家物語の女人悲話があり、この二つに比べて「横笛」は若干インパクトに欠けるような気がする。それは「小督」と「祇王」の物語の中で、悪役は平清盛という大物を配しているのに対し、「横笛」の悲恋を妨げたのは滝口入道のお父ちゃんだったことによるのかなと。








そんな滝口寺を訪問してきた。


【滝口寺】 ・・・ 京都市右京区嵯峨亀山町10-4


こんな感じで小倉山の斜面を登っていく。



祇王寺に隣接していて、祇王寺の入り口からはこのように通路がある。



これが滝口寺の入り口。



境内を入ったところに「瀧口と横笛の歌問答旧跡」碑と「横笛歌石」があった。



平家供養塔があった。



これが本堂。かなり朽ちてきている。屋根などは陥没してきている。



屋根については、「お詫び」として、「この屋根はヨシであり、耐用年数16年とされている中、すでに16年が経過しているが、諸事情により葺き替えが遅れている」と説明している。



本堂の中。



おっと、この絵は横笛が滝口入道を訪ねてくる場面とのこと。見事だ。



滝口入道と横笛の木像。鎌倉時代末期の作らしい。



本堂から庭を眺める。



その他、新田義貞の関連の供養塔もあったが、パス。












これはこれで、満足度の高い訪問でありました。





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