すさまじきもの 〜歌枕探訪〜


田蓑橋(大阪市北区)

中之島の堂島川に架かる橋。

知名度もなく、橋の構造も鉄筋コンクリートに鋼製の桁橋で、全くインパクトに欠ける。

ただ、この辺りは中世では「田蓑の島」と称され、歌枕の地になっていた。

特に昔の雨具である「蓑」から連想して「雨」がイメージされ、「雨」にちなんだ歌が詠まれている。



 雨により田蓑の島をけふ行けど名にはかくれぬものにぞありける  紀貫之(古今集)
雨なので、蓑を着て田蓑の島に今日行ったのだけれど、
蓑という地名だけでは体を隠すものにはならない。





田蓑橋と中之島のビル群



「田蓑橋」の文字がよく見えない



北側から橋を写す
交通量も少ない
人はほとんどいない



道路案内板

非常に地味な橋と場所であった。





  なにはがたしほみちくらしあま衣たみのの島にたづなき渡る  古今集
難波潟の方は満潮になってきたので田蓑島の方へ鶴が鳴き渡ってきたよ。
(鶴は干潟にいるが、潮が満ちてくれば飛び立たざるを得ない)





「和歌の浦・・・」の二番煎じのような歌であるが、自然の干潟が
どこにでもあった昔では、よくある光景だったのかも。





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田蓑橋遠望

ロイヤルホテルから撮影











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・・・ところが、 大阪市西淀川区に「田蓑神社」があるという。
どうも気になっていた。
2014年、西淀川区の「大和田」「千船」を訪ねた際に、思い切って田蓑神社まで足を延ばしてみた。

   
団地の中に不思議な感じで鎮座している。


   
静かなたたずまいの神社であった。


   
紀貫之の「雨により田蓑の島をけふ行けど名にはかくれぬものにぞありける」の歌碑があった。


   
なんと謡曲「芦刈」ゆかりの地の石碑があった。
たしかに謡曲の方では田蓑嶋の地名が出てくるが・・・

シテ   雨に着る
地    雨に着る。
田箕の嶋もあるなれば。露も真菅の笠はなどかなからん


いやはや、感動モノであった。


とりあえず謡曲「芦刈」のクライマックスに男と女が交わした歌


君なくて、あしかりけりと思ふにも、いとど難波の浦は住み憂き


あしからじ、よからんとてぞ別れにし、なにか難波の浦は住み憂き




謡曲「芦刈」では、二人はその後、仲好く暮したそうだ。

(大和物語の「芦刈」はハッピーエンドでなかった気がするが)






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摂津名所図会の「芦刈」

早稲田大学図書館








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