すさまじきもの 〜歌枕探訪〜


都留の郡(つるのこほり)(山梨県都留市)








「都留の郡」を詠んだ歌


むろがやの都留の堤の成りぬがに 子ろは言へどもいまだ寝なくに 万葉集


雲の上ににほりうゑて 甲斐国鶴の郡をうつしてぞ見る 夫木和歌集


君か代はつるの郡にあえてきぬ さだめ無き世の疑いもなく 伊勢(後撰和歌集)


君がため命かひにそ我はゆく 鶴のこほりに千世はうるなり 壬生忠孝(新千載和歌集)



上の万葉歌は一般的な東歌で、川の堤防ができたと女性は言うけどまだその女性とは共寝していないと、若者の悩みを詠んだ歌。「子ろ」は「女の子」の意味で東国の言葉。

ただし「都留の郡」が歌枕となったのは、都留(つる)が「鶴」に通じ、長寿や永遠を連想させるものであったからだろう。

もしも違う地名であったなら、絶対に歌枕になっていないはず。

下の三首は、まさしく長寿の鶴に掛けたもの。

長生きの薬である「菊」を組合わせたりしている。

また、甲斐の国なので「買ひ」を掛けて、「売る」につなげたりしている。

だれも実際に甲斐国の都留の郡には行っていないだろう。




さて、歌枕としての都留の郡を訪ねるに際し、一体どこに行けば歌枕らしい場所を実感できるのか、予め検討した。

一般的には、古代の都留郡の中心地である官衙(かんが)の跡地などへ行けばいいのだが、調べてみると、まだ正確に場所が特定されていないようだ。

大月市が有力な候補地だという資料もあったが、それでは現在の都留市から離れてしまう。

まあ、都留市内だったどこでも良いことにして、「じゃらん」の都留市観光ランキングを見てみた。

すると、
一位は圧倒的に「山梨県立リニア見学センター」

いつもテレビのリニアモーターカーの映像に映る場所とのこと。

歌枕とは全く関係の無いジャンルであるが、これは是非とも行ってみたいと、胸を躍らせて車で向かった。


ところが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で急遽閉館していた。


この写真のアーチ橋の右にあるビルが見学センター。




ほとんどがトンネルのリニアモーターカーの路線のうち、めずらしく地表に出る区間である。




仕方が無いので、近くにある「道の駅 つる」に行った。




前掲の「じゃらん」のランキングで、この道の駅は四位。




一般的な道の駅であった。













「都留」が「鶴」につながるなんて、現在ではあり得ない。
よほど昔の人はダジャレを普段から考えていたのだろう。






copyright(C)2012 すさまじきもの〜「歌枕」ゆかりの地☆探訪〜 all rights reserved.