すさまじきもの 〜歌枕★探訪〜 |
浦の初島(兵庫県尼崎市)
多分、歌枕の「浦の初島」は現在の尼崎市の「初島」とは、場所が違うのだろう。 尼崎の一帯は、猪名川や神崎川の河口にあることから土砂の堆積が激しく、海岸線は時代とともに前進した。また自然の作用だけではなく、中世以降は人工的に埋立てを行なった結果、現在では昔の海岸線がどこにあったのか、分からなくなってしまった。 江戸時代になって、 尼崎藩が埋立てをした「築地」に、内陸部から「初島大明神」を移転させ、そして新たな埋立地の地名を「初島」としたため、尼崎の臨海部に改めて「初島」が登場したことになった。 |
歌枕としての「浦の初島」は、白砂青松の海岸、沖に浮かぶ小舟、芦の葉しげる砂州の小島、これらが織りなす風景から「摂津の松島」と呼ばれたというもの。 今となっては想像もできないのだが、多くの歌人たちが「浦の初島」を訪ね、素晴らしい風景を愛でて歌を詠んだ。 |
あな恋し行きてやみまし津の国の今もありてふうらの初島 | 戒仙法師(後撰和歌集) | |
見るままに波ぢはるかに成りにけりかすめば遠き浦のはつ島 | 常盤井入道前太政大臣(続拾遺和歌集) | |
思ひやる浦の初島おなじくは行きてや見まし秋の夜の月 | 平清時(続拾遺和歌集) | |
いかにせん浦の初島はるかなるうつつの中は夢をたに見す | 藤原定家(新拾遺和歌集) | |
入日さすしほ瀬の波のすゑはれてひがたにちかき浦の初島 | 称名院入道内大臣(新続古今和歌集) | |
行きてこそ見るべかりけれ暮れかかる沖つ波まの浦のはつ島 | 津守国基(新千載和歌集) | |
小夜千どりうらのはつしま行きかへり有明の月の空に鳴くなり | 範定(夫木和歌抄) |
そんな「浦の初島」の現在の姿![]() ![]() 近世の埋立地の「築地」の風景。 一般的な尼崎の住宅地になっていた。 ![]() 「初島大明神」は江戸時代に築地に移転してきた。 その前は尼崎市東本町4丁目辺りにあったらしい。 |