すさまじきもの 〜歌枕探訪〜


浦田(岡山県玉野市)






岡山県玉野市の、瀬戸内海に面して広がる渋川海岸は岡山県有数の海水浴場として夏には多くの県民が訪れるらしい。とても幅広な砂浜と背後に広がる松林は、まさに白砂青松の風景で、訪れた人々の気持ちを和らげてくれる。


そしてここは西行法師ゆかりの地でもある。
昔は浦田の浜とも呼ばれていて、四国へ渡る予定の西行が船の風待ちをした地である。

その風待ちの際に、海岸で「つみ」を拾っていた子供たちを見て詠んだ歌が山家集に収録されて残っている。


おり立ちて浦田に拾ふ海士の子はつみよりを習ふなりけり 西行


意味は、浦田の浜で『つみ』を拾う漁師の子供たちは、それにより魚を獲る殺生という『罪』に慣れてしまうのだろう、というかんじ。
拾った『つみ』というのは、海藻のことか貝のことなのかよく分からない。
西行は出家した坊さんだったので、殺生とかに敏感に反応したのか、とにかく魚を殺して生計を立てる漁師の生活が気になったのであろう。


けれども、子供の頃から『つみ』を拾って殺生の『罪』を身に着けるとか、そんな歌を詠まれた浦田の漁師たちは気の毒である。
文学史上の超大物から一方的に漁業という職業は仏法破りだと断罪された歌を詠まれ、しかも地名入りの歌である。
そして現在でも岩波文庫から出版されるほどの古典の名著「山家集」に収録されてしまい、浦田の漁師たちは殺生の罪を犯していると、永遠に語り継がれることになった。

何の広報手段も持たない浦田の漁師たちの遣る瀬ない気持ちをどう慰めたらよいのか。

そんなことを考えると、西行の方の罪も重いと思う。





とは言うものの、現在の渋川海岸は西行法師ゆかりの地として、全国の西行ファンが集う聖地となっている。


こんなかんじ


立派な西行像があった。



海岸には渋川八幡宮があった。



そしてこれが西行法師の腰掛石。



渋川海岸。訪問したのは6月の梅雨時。真夏は素晴らしいのだろう。



「日本の渚・百選」に選ばれているらしい。

















たぶん西行は「つみ」の語呂合わせで
軽い気持ちで詠んだのでしょう






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