すさまじきもの 〜歌枕★探訪〜 |
和深(和歌山県すさみ町)
紀伊半島を車で南下していくと、白浜を過ぎたら次は串本まで何もないという感じ。椿、周参見、見老津、日置といった町はあるが、大したことはない。海路でも同じで、白浜から串本までの間にはこれといった港がなく、天候悪化のときに船を避難させる港がないらしい。 このような航海が困難な場所を「灘」といい、沖から見ると岩がむき出しになった海岸が枯木に見えることから、「枯木灘」といった。 |
中上健次の「枯木灘」を読んだ。 路地裏でいろいろ起こることを、息が詰まるような重苦しい筆致で書きすすめられている。性、暴力、死がこれでもかってかんじで繰り返し登場し、正直、しんどかった。 さて、この地には熊野参詣道の大辺路が通っており、有名な峠越えの「長井坂」がある。この長井坂を詠んだ歌が土地の旧家に残されていたらしい。 |
和深山世に古道をふみたがえ まよひつたよう身をいかにせん | 源 俊頼 |
和深山岩間に根ざすそなれ松 わりなくてのみ老やはてなし | 藤原清輔 |
身のうさを思う涙は和深山 なげきにかかる時雨なりけり | 西行 |
※長井坂から眺望できる枯木灘の光景は、「古来文人墨客がこぞって絶賛した正に無双の絶景」(すさみ町HP)とのことだが、これらの歌には絶景の海が詠み込まれていない。 |