すさまじきもの ~歌枕★探訪~ |
山中温泉(石川県加賀市)
北陸地方には魅力的な温泉地がひしめいてあり、日本海の味覚と相まって、旅情をかきたてて止まない。 石川県加賀温泉郷の、粟津温泉、片山津温泉、山代温泉、山中温泉、福井県の芦原温泉、石川県の和倉温泉などが特に有名である。 この中で、文学的に甲乙を付けるとしたら圧倒的に山中温泉に軍配が上がるだろう。 それは日本史上最高の俳諧師で、俳聖と称された松尾芭蕉が山中温泉で9日間も逗留し、温泉につかったり、近辺の風光明媚な景色を楽しんだ末に温泉を讃える名句を詠み、そして著書の「奥の細道」にこの地でのエピソードと共に書き込んだことによる。 与謝野晶子の片山津温泉や魯山人の山代温泉のエピソードもあるが、「奥の細道」に一蹴されてしまうだろう。 その他、高浜虚子、山本周五郎、棟方志功、山下清、谷崎潤一郎、吉川英治たちもそれぞれに足跡を残しているが、よく分からない。 また芭蕉は「奥の細道」の中で「山中温泉の効能は有馬温泉に次いで日本第二位」と説明しているし、また他の機会に「扶桑三名湯」として草津温泉、有馬温泉、山中温泉を挙げている。 芭蕉からの応援メッセージは山中温泉にとってとても有利に働いただろう。 そんな松尾芭蕉が愛した山中温泉に行ってきた。 【総湯 菊の湯】 ・・・ 加賀市山中温泉湯の出町レ11 ![]() これが総湯 菊の湯。芭蕉もつかったらしい 湯船は立って入るほど深く、またお湯は熱かった。近所の人のたまり場のようで、なんとも風情があった 真夏に行ったので、お湯から出た後は汗が吹き出し、大変であった ![]() 反対側から撮影。夜店のようなものがあった。夜は賑やかになるのだろう ![]() 正面 ![]() 温泉が湧きだしていた ![]() 卵を茹でる場所や、飲泉するところがあった ![]() 上の「総湯 菊の湯」は男湯であるが、隣に女湯がある 真夏の真昼に温泉につかった後、ふらふらして歩いていたら、観光客に案内するガイドスタッフの声が聞こえてきた それによると、菊の湯の前の「みのわ呉服店」の場所に芭蕉が泊まった宿があったらしい ![]() 「みのわ呉服店」とガイドスタッフと観光客 芭蕉フリークの私は本当に興味深く話を聞いたが、この観光客はどれほど興味があったのだろうか。一般の人にとって芭蕉がどこに泊まろうが知ったこっちゃないハズ |
山中や菊は手折らし湯のにほひ | 松尾芭蕉(奥の細道) |
湯の名残今宵は肌の寒からむ | 松尾芭蕉 |
菊の湯の名称は、芭蕉の句の菊に由来するもの。 【山中温泉芭蕉の館】 ・・・ 加賀市山中温泉本町2丁目86−1 ![]() 金沢から体調を崩していた弟子の曽良が療養のために先に出発することになり、山中温泉で二人は別れた 山中温泉芭蕉の館の軒先に別れのシーンが再現されている ![]() (左:芭蕉、右:曽良) 行くものの悲しみ、残るもののうらみ、いやはや感動の名場面である ![]() 主従離別の場面の碑があった そんな二人は別れに際し次のように詠み交わしている |
行き行きて たおれ伏すとも萩の原 | 曽良(奥の細道) |
今日よりや書付消さん笠の露 | 松尾芭蕉(奥の細道) |
【こおろぎ橋】 奥の細道の時期にはまだ架かっていなかったらしい。 ただ、現在では山中温泉の景勝地として大勢の観光客が訪れている。 ![]() 現在では車も渡る ![]() もともとの江戸時代に造られた橋の、かつての形や構造を殆ど変えず総檜造りで1990年に新たに架け替えたもの ![]() 橋のたもとに「こおろぎ橋」碑 【鶴仙渓】 松尾芭蕉は山中温泉に滞在中、大聖寺川の渓谷を散策したらしい。 浸食された砂岩の奇岩が織りなす景観は素晴らしいハズだが、この日は早朝に大雨が降り、その後に気温が急上昇したので、 こんなかんじ ![]() さらに ![]() さらに ![]() 川の水から水蒸気?靄?が発生してすごかった 芭蕉はこの大聖寺川に棲むカジカで一句詠んでいる |
かゞり火に河鹿や波の下むせび | 松尾芭蕉 |